第25章 ノックスの十戒9(3)
エレベーターは5階で、シルハラを受けた(と清廉氏が主張する)男性を降ろし、6階の総務部に到着しました。
清廉氏とスフレさんがエレベーターを降ります。
「ここは給湯室です」
清廉氏は、エレベーター横の扉のない小部屋を前にそう紹介します。
「給湯室・・・・あ、そうだ。これ、お菓子なんですけど、良かったら休憩時間に皆さんで・・」
スフレさんは、タルト所長に持たされた菓子折りを清廉氏に差し出します。
「コンプライアーーーーーーーンス!!!!!」
「?!?!?!」
スフレさんの耳につけた受信機からは何の音も聞こえません。
「スイーツハラスメント略してスイハラ!!」
「・・・あ、はい。お菓子ハラスメント略してオカハラとも言いますよね。それは知っています。食べたくない人に無理にお菓子をすすめたり、特定の人にお菓子を配らなかったり、旅行の際に職場へのお土産を強要したりするハラスメントですよね。・・でも、私のこれはハラスメントになるんですかね?」
「その菓子折りは複数種類のお菓子が詰め合わせになっているものでしょう。これでは、好きな種類のお菓子が食べられなかったりするので不公平です。それに、給湯室に『ご自由にどうぞ』的に置いておくと、何個も取ったり、逆に遠慮して食べられなかったりする人が出てくるのでこれも不公平です。立派なスイハラです」
「ええーーー(T T)」
さて、先程からタルト所長側の音声が全く聞こえてこないんですが・・・
「タルト所長?・・・タルト所長?聞こえてますか?」ボソ
スフレさんがこっそり肩に口を寄せて襟元のケサランパサランに小声で話しかけます。
しかし、何の応答もありません。
「困ったなぁ・・・機械の故障かな。どうしよ」
なんとかタルト所長と連絡を取ろうとするスフレさんが考え付いた、その方法とは・・・
「昨今のデジタル化にはこういう弊害があるんだよな~やっぱり昔ながらの方法が一番でしょ」
と、バッグから1枚の紙を取り出し(この紙は先日の『女装旦那不倫濡れ衣事件』の際に作成した報告書の書き損じ分です)、ライターで火を付けて下に落としました。
・・・・もしかして、狼煙のつもりでしょうか?!
クリーンクリーン♪ 床の上には ララ 書類が燃え~る♪
「コンプライアーーーーーーーンス!!!!!」
「?!?!?!」
「スモークハラスメント略してスモハラ」
「タバコ吸ってませんけど?!」
「スモーク全般駄目です。狼煙もサーモンもダメです」
「燻製もダメなの?!」
スフレさんはしぶしぶ火を消して後片付けをします。
ハラスメント以前の問題のような気もしますが、火災報知機も作動しなかったようですし、まあいいでしょう。
「あ、そこ。灰がまだ2欠片残ってますよ」
「・・・・細かいなぁ・・・清廉さん、A型でしょ」
「コンプライアーーーーーーーンス!!!!!ブラッドタイプハラスメント略してブラハラ!!血液型で相手の性格を決めるなどの嫌がらせ行為!!」
「・・・わかりましたよ。・・・あ、もうお昼だ。昼ごはん食べていいっすか?」
「コンプライアーーーーーーーンス!!!!!エアーハラスメント略してエアハラ!!空気を読まない行動で場の雰囲気を悪くする行為!!・・・・ですが、昼食は摂ってもいいです。昼食抜きで業務をさせると、兵糧攻めハラスメント略してヒョウハラになりますからね」
「じゃあ、コンビニでチルドのレンチン麺買ってきたんで、電子レンジ借りていいっすか?」
「コンプライアーーーーーーーンス!!!!!エレクトロニック・ハラスメント略してエレハラ!!電磁波や低周波音などを利用した嫌がらせ行為!!」
「確かに電子レンジは電磁波発生しますけど、嫌がらせはしないですって!ラーメン温めるだけだし!!」
物怖じしないスフレさんは給湯室の電子レンジでラーメンを温めて食べ始めました。
ズズズズズズー ズズズズズー
「コンプライアーーーーーーーンス!!!!!ヌードルハラスメント略してヌーハラ!!麺類やスープ類を食する際に『ズズッ』という音を出す行為!!」
「でしょーねー。あ、でもこれ、美味しいんですよ。コンビニ麺とは思えない、有名ラーメン店さながらの味。清廉さんも食べてみて下さいよー」
「コンプライアーーーーーーーンス!!!!!グルメハラスメント略してグルハラ!!料理へのこだわりを他人に押し付けたりする行為!!」
「押し付けてはいませんけどねー・・・・うーん。ここちょっと暑いっすね。エアコンのリモコンは・・・あった。ポチポチっとな」
「コンプライアーーーーーーーンス!!!!!エアコンハラスメント略してエアハラ!!エアコンの温度・使用に関する、周りの状況に配慮しない行為!!」
「ふーーーん・・・あ、もう食べ終わりました。そろそろ次行きますか」
清廉氏とスフレさんは何事もなかったように給湯室を出ます。
そして、やっとスフレさんの配属先、総務部に到着しました。
中には、6人ほどの社員が働いています。
お昼休みにはまだ少し早い時間だったようです。
「おはようございまーす。お疲れ様でーす。・・・あれ?おはようございまーす」
スフレさんは元気よく中に入りましたが、社員は昼食前に午前中の仕事をなんとか終わらせようと集中しています。
「コンプライアーーーーーーーンス!!!!!挨拶ハラスメント略してアイハラ!!」
「そんなハラスメント聞いたことない!!」
「『俺の挨拶が聞こえなかったのか』と、挨拶を強要する行為のことです。常識でしょう」
「んな、『俺の酒が飲めないのか』的に言われても」
「それはアルコールハラスメント略してアルハラです」
「知っとるわ」
スフレさんは自分の席へと案内され、業務内容の説明を受けました。
そして、清廉氏も自分のデスクへ戻っていきました。
「・・・うーん。相変わらず受信機からは何の音も聞こえない・・・狼煙がだめなら仕方ない。こっそりスマホで連絡とってみよう。えーと、タルト所長のスマホは着拒されてるからダメだな。事務所の固定電話にかけてみよっと。
・・・・・・・・・・・・・・・
あれ?話し中?・・・・・かくなる上は・・・事務所のSNSに書き込みを・・・」
「コンプライアーーーーーーーンス!!!!!ソーシャルハラスメント略してソーハラ!!」
「!!!!!いやいや、そういう類の書き込みはしません・・・・て、見てたんかい!!」
潜入がバレたらまずいですよ、スフレさん。
周りに気を付けて行動しましょうね。
「だって、さっき自分の机に帰っていったと思ったのに、いつの間に・・・ていうか、ハラスメントの前に、仕事中にスマホいじってるのをまず注意しなさいよって話でしょ、私が言うのもなんだけど」
「それはパワーハラスメント略してパワハラと捉えられる恐れがありますのでしません」
「ここにきて一番メジャーなハラスメント登場。・・・あ、そうではなく、あの、今のは清廉さんに言ったのではないんですが・・」
「誰に言ったんですか?」
「”地のb・・・・いえ、なんでもありません」




