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第15章 ノックスの十戒3(2)

成功報酬として規定の金額プラスうつぼジャーキーを贈呈するという依頼人の言葉に上機嫌のエ・クレア助手をはじめとするRR探偵事務所の3人は、いつものように早速依頼人の家に到着しました。

依頼人、平凡凡平さんの家はこれまた普通のマンションの3階の角部屋です。


「どうぞ、お入り下さい」


平凡さんが持っていた鍵でドアを開け、中に向かって声を掛けます。


「月波~~。探偵さん方が来て下さったぞ~」

「はーーーーい」


部屋の奥から出てきたのは、これまた普通の主婦といった感じの、エプロンをした女性。

凡平さんの奥さんの平凡月波へいぼんつきなみさん32歳。


「パパぁ~~~~~」

月波さんの後ろをトコトコとついて来ているのは、凡平さんの娘、3歳の平凡コモンちゃんです。


「こんにちは~。私はスーパーミラクル美少女探偵の青山スフレお姉さんだよ~。よろしくね☆」

「わあ、すごぉ~い。たんていってなぁに?変身できるの?」


スフレさんは大の子供好きで、子供たちとすぐに仲良くなれるのが特技です。

きっと、知能指数が同じだからなのでしょう。


「変身?できるよー。これが、『アイプチ』っていっておめめパッチリになる変身グッズでー、これは『ボトックス注射』っていってお顔が小さくなったりハリが出たりする変身グッズでー、そしてこれがエラを削る『医療用電動ヤスリ』・・・・・」

「よくわかんないよぉ~~~」



「・・・ええと、テディベアの置いてある客間はこちらです。どうぞ」


廊下に並べられた美容整形グッズ(ガチな専用器具を含む)を横目で見ながら、凡平さんはタルト所長とエ・クレア助手を現場の部屋へと案内します。


「コモン、自分のお部屋に行ってましょうね」


月波さんがコモンちゃんを子供部屋に連れて行ってしまいました。


「あ、所長、待ってくださいよー」


グッズを全て胸ポケットにしまったスフレさんは、慌てて所長たちを追いかけます。



3人が案内された客間は、レンガ調の壁紙で落ちついた雰囲気、中央にローテーブルとソファがあり、他にテレビ、観葉植物、本棚、小さめのキャビネットが置かれている、ここはモデルルームなのかという程、心底一般的な部屋でした。

ドアは、今入ってきた廊下に面したドア1枚、そして窓が南側に2か所あります。

キャビネットの上に30cmくらいのクマのぬいぐるみが置いてあります。

これが今回の依頼のテディベアなのでしょう。


「かわいいですね」

「見たところ、変わったところはない、普通のテディベアに見えますが」

「これが夜な夜な徘徊するのかニャ」


「・・いや、徘徊はわかりませんが、見るたびに位置が変わってるんです」

「絡繰りとか仕込まれてたりは・・・」


「ないと思います。触って確かめてもらってもいいですよ」

「う~~ん。電池で動いてシンバルを叩くとか、光が当たるとクネクネ歌って動くとか、そういうのではないようですね・・・」


「毎晩、そこのドアにカギを掛けて・・・・もちろん、この2か所の窓も施錠しています。ですが、次の日にはテディベアだけが動いているんです」

「なるほど・・・」


「あのっ!」


スフレさんが何かを思いついたような顔で手を挙げています。


「なんでしょう」

「何だね、スフレ君」


依頼人もタルト所長も特に何も期待せずにスフレさんの発言を待ちます。


「この部屋に秘密の扉はありますかっ?」

「・・・・スフレ君」

「そんなものあったら、そもそも事件になってニャい・・・」


「ありますよ」

「WHAT?!」

「NO WAYニャ!!」


「そこの本棚、スライドできるんですよ。こんな風に」


凡平さんが本棚を左側から押すと、すーーーっと本棚が右へと移動しました。

そして、本棚で隠れていた壁部分には、小さめのドアが付いています。


「いやいやいやいや。これで一件落着でしょう」

「ここから誰かが侵入したのニャ。たぶん家族のだれかニャ」


「いえ。それはありえないんですよ」

「何故ですか?」


「このドアは隣の私達夫婦の寝室につながっています。しかし、この本棚は客間側からしか動かせないんですよ」

「そうなんですか?」


「ええ。本棚の左側面にボタンがあって、それを押しながらでないと動かないんです。このドアを使う時は、客間側から本棚を押してドアを出現させ、そのままドアを抜けて寝室に入り、用事を済ませてまたこちらの客間に戻ってきて本棚を元に戻す、もしくは寝室のドアから出て廊下を通って客間に入り、本棚を元に戻すしか方法はないんです」

「面倒だニャン」

「もともと何のために作られた隠し扉なの?」


いやあ、ごくごく平凡な一般家庭かと思ったら、とんだ奇天烈屋敷ですね。

・・・・て、ここ、マンションですよね?


「賃貸マンションで、このドアは最初からついていたんですよ。私も何のために付いているのかわからないんです。このフロアの皆さんに聞いたら、全員同じドアがあるって言ってました。コモンはおもしろがって何度も通って遊んでるんですけど」


「どんな標準仕様マンションだよ」

「ドア隠す必要あるのかニャ」

「いや~ロマンですね~(意味不明)」


「朝、私が客間のドアの鍵を開けて中に入ったときにはいつも本棚は元の位置にあるわけですから、この秘密のドアが使われたという事は考えられません」


「客間のドアの鍵は?」

「もちろん、私が持っている1本だけです。肌身離さず持っているので、誰かがこっそり使ったりはできません」


「なるほど。これは存外、難事件なのかもしれないな」


どうやらタルト所長、本気モードに入るようです。


トコトコトコ・・・・・


廊下から可愛らしい足音が近づいて来て、客間のドアからぴょこんと顔を出したのはコモンちゃんです。


「おねーちゃん」


小声でスフレさんを呼んでいます。

タルト所長は本気モードに入るための暖機運転中。エ・クレアさんは報酬のうつぼジャーキーをなんとか先払いしてもらえないかと凡平さんに交渉中なので、スフレさん以外誰もコモンちゃんに気付いていません。


「うん?どうしたの?ママは?」

「『みなさんにおちゃをおだしする』って言ってお台所にいるよ~」


「あらら。そんな、お気遣いなく。アラミドコーヒーで十分ですーって伝えて」

「あのね。クマたん、コモンちゃんのお友達なの」


「クマたん?」

「そう。パパは触るなっていうんだけど、コモンちゃん、いつもクマたんと遊んでるの」


「クマたん・・・て、もしかしてあのテディベア?!」

「うーん。よくわかんないけど、このお部屋のクマたん」


コモンちゃんは客間の中を指差します。


「いつも遊んでるの?」

「うん。コモンちゃんのお部屋で一緒に遊びたいけど、パパがメッ!てするから、コモンちゃんがここに来て遊んでるの。クマたん独りでかわいそうだから」


「いつ遊んでるの?」

「朝。うんと早く。まだママもパパも寝てるから、こっそり起きて遊びに行くの」


「どうやってこの部屋に入ってるの?鍵、かかってるよね」

「うん。でもコモンちゃん入れるの。こっち来て」


コモンちゃんはスフレさんの手を引っ張り、客間の隣、凡平さん夫婦の寝室とは反対側の隣にある自分の子供部屋に招き入れます。

そして、子供用の小さな備え付けクローゼットを開けると、良く見ないとわかりませんが、その正面奥の下方にはなぜか、30cm四方くらいの正方形の切れ込みが入っていて、正方形の内側の左の方に手を掛けるための溝が付いています。

コモンちゃんがその溝に右手を掛け、右に動かすと、


スルスルスル・・・・・


ほとんど音もたてずにその正方形の板は右へと移動し、ぽっかりと穴が開きました。


「あ、コモンちゃん、ちょっといいかな」


コモンちゃんが脇によけると、スフレさんはその開いた穴に顔を突っ込みました。


ズボッッ!!!!



「うわあああ!!!」


首だけ穴の中状態のスフレさんと目が合ったのはタルト所長です。

タルト所長の立っていた傍らの壁の、下から25cm位のところからスフレさんの首が生えています。


「な・・・なん・・どっから?!」

「あ、所長。そこは客間ですか?」


「ああ、そうだよ!何もない壁にいきなり穴が開いたと思ったら、君の顔が飛び出してきて!!」


エ・クレア助手も、家主の凡平さんも目を丸くしています。


「みなさん、何の騒ぎですか?・・・・・・・・いやあああああああ!!!」


様子を見に来た家主の奥さん月波さんも壁から首だけ出しているスフレさんを目の当たりにして失神寸前です。


「これって・・・パパとママは知らないの?」

「うん。コモンだけの秘密の扉なの」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「・・・・・はあ、子供部屋にも抜け穴があったとは」

「子供部屋の方から開け閉め自由ですからね。普通に出入りできますよね。クローゼットの中には結構物が入っていて、抜け穴も下の方にあったから、月波さんも気づいてなかったようですね」

「客間の壁紙がタイル調だったから、抜け穴の切れ込みが目立たなかったのニャ」


「はっ!!!ちょっと待ってください!!!」

「またかい、スフレ君。今度は何だね」


「抜け穴が2つありました!!!」

「そうだった!!」

「ニャニャンと!!!」


「これって、ノックスの十戒その3『犯行現場に、秘密の扉・抜け穴・通路が二つ以上あってはならない。』に反してますよね?!」


いいえ。それは違います。


「いや、今回はさすがに言い逃れできないだろう」


いいえ。犯行現場に、”秘密”の扉等が2つあってはならないのですから。

寝室に続く扉の方は、家族全員知ってたわけですし、最初にあなた方探偵側にも情報は提示されていました。

したがって、この扉は”秘密”ではないものと認定します。


「へ理屈だ!!」

「地の文だからって何でもまかり通ると思ってるの?!」

「ニャンニャニャーーーン!!」





というわけで、『私と猫と迷探偵と』はノックスの十戒を忠実に守って書かれています。

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