第13章 ノックスの十戒2(2)
v逆流say!食堂”縁”に着いた3人。
今は営業時間外なので、お店の人にゆっくり話を聞くことができました。
「このネクタイピンについている飾り、どうやら高価なものらしくて。なんとか持ち主の方にお返しできないものかと・・・」
人のよさそうな食堂の店主、宇舞飯造はこう話します。
「はい。任せて下さい!この私、ピチピチ女子大生探偵助手青山スフレが、ズバッと持ち主を探してみせちゃいますよ!!」
「どうやってニャ?」
スフレさんがネクタイピンに手を伸ばします。
「それはもちろん、サイコメトリ・・・」
「だめだ!」
「それはノックスの十戒その2『探偵方法に、超自然能力を用いてはならない。』に反するのニャ!!」
スフレさんはしぶしぶネクタイピンから手を引っ込めます。
「ぶーーー。わかりましたよ。では、これで」
スフレさんは、自身のブラウスの首元に手を突っ込みます。
そして、その首元から引っ張り出したのはペンダント。
ペンダントトップは逆三角の形をした水晶のようです。
「ちょっと待ったーーー!スフレ君、何をしようとしているのかね?」
「え?もちろんダウジン・・・」
「それもだめニャッ!!」
スフレさんはかなり不服のようです。
ヒマワリの種を詰め込んだリスのような頬で2人をねめつけています。
「じゃ、これは?」
スフレさんは、自身のブラウスの首元に手を突っ込みます。
そして、その首元から引っ張り出したのはフルサイズ一眼レフカメラ。
カメラはミラーレスのようです。
「どっから出した?」
「どこに入ってたニャ?」
「・・・・で、そのカメラで何をしようと?」
「え?もちろん念sy・・・・」
「何を?!」
「何が写ってもダメなのニャ!」
「もぉ~~~、じゃあ、どうやって持ち主探すんですか?」
「探偵の基本は”良く観ることから”。ネクタイピンから何か情報が得られないかよく観察しよう」
ネクタイピンは、よくあるクリップタイプの銀色で細身な物です。
先の方に石が付いています。宝石でしょうか。
「しかし、パッとしない色の石だな」
「飾りにしては地味ですね」
「普通の石ころのようにも見えるニャ」
「これって、そんなに価値のあるものなんでしょうか」
疑問を店員さんにぶつけるスフレさん。
「ええ。なんでも、『モノポール』とかいう石らしいんですが、自分は宝石のことに明るくなくて」
「モノポール?!?!?!?!」
「世紀の大発見ニャっっっ!!!!!」
「所長、モノポールってなんですか?」
「え?え?これ、も、持ち主・・・さ・・さが・・」
「タルト所長!持ち主探さずに自分のものにしようとか考えてるんじゃニャいでしょうね?!」
「所長、モノポールってなんですか?」
「・・・・いったん落ち着こう、スーハースーハー」
「深呼吸ニャ」
「所長、モノポールってなんですか?」
大混乱の2人。(スフレさんは人数に入っていません)
「・・・・はあ、宇舞さん。モノポールは宝石ではありませんが・・・」
「ああ、だったらそんなに貴重品ってわけでもないんですね。もう少し待って持ち主が現れなかったら処分・・・」
「ニャンてことをーーーーー!!!」
ネコパーーーーンチ☆☆
大丈夫です。ネコパンチは、動物好きの店主にはこの上ないご褒美です。
「ところで、モノポールが何たるかをご存じないご主人が、何故これをモノポールだと?」
「え?だって、ここに書いてあるし」
店主はネクタイピンを指さします。
タルト所長がネクタイピンを手に取り、裏返してみると、そこには細い油性ペンで
『もの ポール』
と書いてあります。
「・・・・なんだ、これ?」
「『もの』がひらがなだニャ・・?どういう事だニャ」
「所長、モノポールってなんですか?」
ギギギギギギーーーーーーー
不快な摩擦音が聞こえ、3人プラス店主が入り口の方に目をやると、背の高い外国人が食堂の自動ドア(営業時間外なので電源は切っています)を無理やりこじ開けようとしています。
「オッチャーーン。コンバンハー」
「おお、エリック。どうしたんだ、こんな時間に」
店主は招き入れた外国人を、常連のアメリカ人、エリックさんだと3人に紹介します。
「コノマエ キタ ワタシ タベル」
「ああ、この前、メガジャンボひとくち餃子を食べに来てくれたよね」
「ジャンボなのかひとくちなのか」
「ちょっと食べてみたい気もするニャ」
「所長、モノポールってなんですか?」
「ワタシ オチタ コレ クッツケル」
「ん?なんだい?」
エリックさんは自分のネクタイを指さしています。
「もしかして、これをここで落としました?」
タルト所長が例のネクタイピンを差し出します。
「ソーーーウデーーース!! Oh! Amazing!!」
エリックさんはネクタイピンを受け取り、嬉しそうにタルト所長と握手をしています。
「ワタシ コマッテイタ アリガトウ」
「エリック君の物だったのか。返すことができてよかったよ」
店主も喜んでいます。
「大事なものだったんですね」
「よかったニャン」
「所長、モノポールってなんですか?」
「モノポール? アア コノ モジ デスネー」
エリックさんはネクタイピンに書かれた手書き文字を見せながら説明します。
「ワタシ ナマエ エリック=ポール デス コレ モノ ワタシノ」
「つまり・・・・」
「『このネクタイピンはポールの物、”もの ポール”というわけかニャン」
「無理矢理過ぎませんかね?!」
思わず店主がツッコんでしまったところで、今回の話をお開きにいたしましょう。
「所長、モノポールってなんですか?」
というわけで、『私と猫と迷探偵と』はノックスの十戒を忠実に守って書かれています