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第100章 赤岩タルト誘拐事件4 ~グッバイ迷探偵~

場面はスフレさんたち3人がいる場所へと移ります。


「どうしよう!早くこどもすくすく公園に10万イィエンを持って行かないと!」

「タルト所長の命が危ないのニャ!」

「しかし・・・」


3人はとりあえず人目を避けるために移動しながら、10万イィエンの調達法について相談しています。


「こうしているうちにもどんどん時間が経っていってます!」

「大丈夫かニャ・・・タルト所長、無事だといいのニャ・・・」


「・・・おい。身代金要求の電話で探偵の声は聞かせてもらったのか」

「い・・いいえ・・・犯人の声を聞きとるのに必死で・・・・そんな余裕なかったっす」

「も、も、も・・・もしかして、タルト所長はもう・・・ニャニャニャー!!」


「まさか!縁起でもない事言わないで下さい、エ・クレアさん!」

「・・・・いや・・・しかし・・・」


「何ですか、黄島刑事!」

「お前ら、今回のサブタイトル・・・見たか?」

「ンニャ?サブタイトルニャ?」


・・・・・・・・・

・・・・・・・・・


「「!!!!!!!!!!」」


「な、な、な、な、なんっすか、このタイトル?!?!」

「グ、グ、グ、『グッバイ迷探偵』ニャと?!」

「迷探偵とは・・・もちろんあいつの事だよな」


「いやいやいやいや。ちょっと待ってくださいよ。ないです、ないです、ありえないです。『私と猫と迷探偵と』は殺人事件の起こらないハートフル・ピースフル・ホープフル探偵コメディです!それにそもそも、タルト所長はこの小説の主人公枠ですよ?!タルト所長がいなくなったらこのお話は続けられません!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


「え?何で黙ってるんっすか?!エ・クレアさんまで!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


「スフレよ」

「な、なんっすか、エクレアさん」


「オレっちと黄島刑事は気づいてしまったのニャ」

「・・・何を・・・ですか・・」


「・・・・章ナンバーを見るのニャ・・・」

「章ナンバーって・・・・・・!!!!!!!!」


そうです。このお話は第100章。

色々とキリのいい数字ではありますね。


「そんな!!!」

「ニャニャーーー!!」

「ひとまずお前ら落ち着け!」


スフレさんは臼と杵を取り出しry)



3人がこうして騒ぎ立てている所に、人影が近づいてきました。


「姉さん。こんな所で奇遇ですね」


のんきな口調で話しかけてきたのは、スフレさんの弟、小学5年生のカヌレ君です。


「カヌレ!カヌレの方こそ、どうしてここに?」


スフレさんは、ここから離れた実家で暮らしている弟の出現に驚いています。

カヌレ君はエ・クレア助手に丁寧に挨拶し、スフレさんに紹介してもらった黄島刑事にも「姉がいつもお世話になっています」などと礼儀正しくお辞儀をしています。


「今日は、この商店街のイベントで有名人が来ると聞いたのでここに来ました。トークイベントの後、握手会があるそうなんです」

「そういえば、受付の所に看板が出てたね」

「オレっち達には謎解きイベントしか見えてなかったけどニャ」

「握手会って・・アイドルかなんかか?」


黄島刑事の問いかけにカヌレ君が答えます。


「いいえ。tyuitterチュイッターを買収して×(バッテン)に名称を変更したことで有名になったEロン・ムスク氏が『信用の構築と資金調達力の向上~世界的経営者に聞く159個のキーポイント~』という講演後に、ファンと交流をするイベントです」

「お堅いイベントだニャア・・・」

「渋い趣味だな、小学5年生」


「ねえ、カヌレ!突然だけど、今、10万イィエン持ってない?!」


本当に突然にスフレさんが切りだします。


「おいおい、持ってるわけねーだろ、小学生だぞ」

「小学生にお金をたかる成人姉・・・あわれだニャ」


「持ってますよ」

「何っっ?!」

「ニャヌッ?!」

「ホントっ?!カヌレ!」


BASMOバスモに15万イィエン程入っているはずです」

「電子マネーかよ!」

「カヌレはバス通学ですからね」

「にしても入れ過ぎニャのでは?」


「今は大体どこのお店でもBASMO使えますよ。僕もお小遣いはBASMOチャージで貰って、買い物にも使っています。姉さん、10万イィエンで何を買いたいんですか?」


3人は顔を見合わせ、目くばせで意見を一致させると、カヌレ君に事の次第を打ち明けました。


~~~~~


「赤岩探偵が誘拐されたって・・・一大事じゃないですか!」

「それで、身代金の10万イィエンが調達できなくて困ってたところなのニャ」

「電子マネーじゃだめっすかね?」

「スイス銀行への振込みならともかく、電子マネーで身代金支払いとか、聞いたことないだろ」


「今はどこでもキャッシュレスの時代ですよ?シャリーンとワンタッチでいけないっすかね?」

「犯人が決済端末を持参しているとでも?」

「赤岩探偵が手に入れた賞金の10万イィエンは銀行から引き出せないのでしょうか?」

「だめニャ。経理は全てタルト所長が担当してるのニャ。オレっちもスフレも事務所の口座に入っているお金には手が出せないのニャ」


注:タルト所長がイベントで手に入れた現金10万イィエンは、前章で述べたとおり実際にはタルト所長本人の手許にあるわけですが、彼らは所長が銀行に預けたものだと推理して(思いこんで)います。


「なら仕方ないっす。やっぱり犯人には電子マネーで手を打ってもらいましょう!」

「最悪、BASMOのカードごと渡しちまえばいけるかもしれんな」

「これで赤岩探偵が助かるならどうぞ使って下さい!」

「タルト所長が無事に帰ってきたら、シーラカンス漁船にでも乗せて返させるのニャ」


意見がまとまったところで、急いでこどもすくすく公園に向かおうとする4人でしたが・・・


びえーーーん  びえええーーーーん


「え?何?!」

「何だっ?!」

「子供の泣き声ニャ!」

「あ!みなさん、あそこです!」


カヌレ君の指さす方を見ると、幼稚園くらいの女の子が泣きながらこちらに向かって歩いてきます。


びえーーーん  びえええーーーーん

迷子になったよー  

ママンと 商店街に遊びに来たけど はぐれちゃったよー

びえーーーん  びえええーーーーん

優しいお姉さんかお兄さんか猫さんが 助けてくれないかなー

びえーーーん  びえええーーーーん


「全部説明してくれていますよ。話が早くて助かるっすね」

「あれだけ喋れりゃ放っといても大丈夫だろ。行くぞ」

「刑事が何言ってるのニャ?!」

「商店街で迷子案内とかしてもらえるんじゃないでしょうか。係の人に聞いてみましょう」


びえーーーん  びえええーーーーん

Eロン・ムスクに会いにきたのに 迷子になっちゃったよー

びえーーーん  びえええーーーーん

ママーーーーン


「子供に人気なのかよ、Eロン・ムスク」

「時代の寵児ですからね」

「迷子案内、どこでやってるんでしょうか」

「もう一度イベント受付に戻って、あのお姉さんに聞いてみるのニャ」


~~~~~


「迷子案内のアナウンスですか?もちろんできますよー。うちの商店街、最先端のハイテク機器を導入しましたからねー。商店街内の放送はもちろん、身許がわかる物をお持ちの場合にはAIが自動でその電話番号に電話して直接お知らせもしちゃうんですよー」


迷子を連れた一行は、商店街入り口のイベント受付にまた戻ってきました。

受付のお姉さんはにこやかに答えてくれます。


「あ・・・でも、あの機械、今朝からちょっと調子が悪いって、担当の人が言ってたような・・・でもでも、とりあえず、迷子案内をしている場所で係の者に聞いてみて下さい。本日のイベント『Eロン・ムスク講演会』をおこなう会場建物内に迷子アナウンス室があります。建物の場所は、イベント看板をたどって行ってもらえればすぐわかりますよー」

「AIが迷子の案内もしてくれるんっすね」

「このような小さな商店街で最新技術を取り入れてるなんてすごいですね」

「オイルマネーで潤ったらしいのニャ」

「オイルだけに潤いたっぷりってか」


受付のお姉さんは、終始ニコニコ顔で4人に応対し、最後にこう言いました。


「ちなみに私も受付専用アンドロイドなんですよ」

「「「「ええーーーーーーーっ?!?!?!」」」」


~~~~~


一同は受付を後にして、迷子アナウンスをしてくれる建物に急ぎます。


「この看板ですね。『あの世界的起業家来たる!Eロン・ムスク講演会 会場は→』商店街の奥の方みたいっす」


スフレさんが迷子の手を引いて先導します。

 

「え・・と、次の看板は・・あった!Eロン・ムスク講演会・・あ、次の看板も・・・・Eロン・ムスク講演会・・Eロン・ムスク講演会・・・Eろんむすくこうえんかい・・・Eろんむ()()()()()()・・・・ああっ?!?!?!」




~~~~~




「やあ、赤岩タルトさん、お目覚めのようですな。気分はどうですかな」


部屋に入ってきたタキシードの男は、ドアを後ろ手に閉め、部屋の中に入って来ました。


「・・・・何故、僕の名前を?どこかでお会いしたことがありましたか?」


見慣れない男に警戒心を抱きながら、タルト所長が尋ねます。


「いや。失礼ながら名刺を拝見しましてね」


タルト所長は、どういう態度で相手と対峙するか決めかねています。


「僕は・・・何故ここに?」


おそるおそるきり出します。


「ああ、すぐそこの創作料理店の店主から、お客さんが酔いつぶれてしまって手に負えないから助けてくれって連絡が来ましてね。私がおぶって運んできてここのベッドに寝かせたんですよ。覚えてないのも無理はない。あなた、べろんべろんだったから」

「・・・え?・・・あなたがここに?・・・ああ・・・それは大変ご迷惑を・・・え・・・と、それで、ここはどこなんです?」


「ここは商店街の迷子を一時的に保護する『迷子アナウンス室』ですよ。そこのデスクの上にある機械に必要事項を入力すると、機械が自動的に判断して、AIアナウンサーが商店街内に迷子の案内放送を流します。しかし、お連れの方はすでに商店街から出て行かれたようですので、あなたの身許を確かめるためにスーツを探らせてもらいました。あなたの物と思われる名刺が見つかって、そこに載っていた事務所の電話番号も機械に入力したので、AIが事務所に電話して自動音声で迷子引取りのお願いをしています。もうすぐおたくの事務所の方がお迎えに来てくれると思いますよ。しかし、ゴッチェ・インペリアル、あんな一気に飲んじゃだめですよ。気を付けなさいね」


この男性は、商店街の迷子担当の係員さんでした。


「・・・ではその、某事件簿の漫画に出てくる怪人のような、()()()()()恰好は一体・・・?」

「ああ、この衣装ですか。今日のイベントのEロン・ムスク講演会の前座でマジックショーをやる予定なんですよ」


「・・・・マジックショー・・・」

「酔いがさめたなら見て行きませんか。講演会の後はEロン・ムスク氏の握手会もありますよ」


男性は、シルクハットをくるりと回転させ、中から鳩ではなくEロン・ムスク講演会のイベントチラシを取り出して、タルト所長に手渡します。

タルト所長は、チラシを一瞥してすぐにたたんで胸ポケットにしまうと、まだ少々不信感の残る面持ちで最後の疑問を口にします。


「・・・・では、この部屋に外から鍵がかかっていた理由は?」

「えっ?鍵ですか?かけてません、かけてません。このドア、建て付けが悪いんですよ。ドアノブを回す時にちょっとしたコツがありましてね。一旦いっぱいまでギュッと回した後、ほんの少し戻しながら開けると、なんとか開くんですよ」


んな事知らんがな・・・とツッコミたい気持ちをぐっとこらえるタルト所長なのでした。


~~~~~


「所長ぉぉぉーーーーー!!!!」


迷子アナウンス室のドアを開けたスフレさんが開口一番、第96章『本格推理小説のすゝめ 終章』の冒頭の台詞のコピペで叫びます。


「タルト所長!無事でよかったですニャ!!」

「おう、探偵!怪我はないか?!」

「赤岩探偵!よくぞご無事で!!」

「・・・?」


ぞろぞろぞろ


スフレさんを先頭にエ・クレア助手、黄島刑事、カヌレ君、迷子幼女が次々と部屋に入ってきます。


「ええっ?!揃いも揃ってどうしたんだい?!そして後ろの女の子は誰?!」



~~~~~



「あちゃー。やっぱり聞き取れませんでしたか」


マジシャンの格好をした迷子担当の男性が、てへぺろ顔で言います。


「今朝から機械の調子が悪かったんですよ。少しノイズが出てるような気がしたんですが、ま、いけるかな、と」

「いや、少しどころじゃなかったっすけど?」


スフレさんが、紛らわしい事をしてくれたスタッフの顔をじろりとねめつけます。


「ちょっと僕が見てみましょう」


と、カヌレ君が近くに置いてあった工具を借りて機械をいじります。


「・・ああ・・ここが・・・うん、うん。なるほど。なら、ここをこうして・・」


と、あっという間に機械を直してしまいました。


「これが、RR探偵事務所にかけた迷子案内の電話のデータですね。流してみましょう」


ポチっとボタンを押すと、今朝AIが探偵事務所にかけてきた電話の内容が、ノイズの除去されたクリアな状態で再生されました。


《コチラハ南町商店街 迷子センターデス RR探偵事務所カラ オ越シノ 赤岩タルト君ヲ 預カッテイマス 年齢ハ不明 ポケットニ ミニミニ掛ケ軸ト 10万イィエンヲ 所持シテイマス オ心当タリノ方ハ 南町商店街 本日 Eロン・ムスク講演会ガ行ワレル イベント会場建物内ノ 迷子アナウンス室マデ オ越シ下サイ 南町警察西隣ニ 広告費ト自治会ノ裏金デ設置サレタ 臨時無料駐車場ガ ゴザイマス 指定ノ駐車スペースガ空イテイナイ時ハ 公共交通機関ヲ ゴ利用下サイ ナオ コノ電話ハ AI音声ニヨリ 自動デ発信シテイマス》


「臨時駐車場設置資金の出どころ情報まで暴露する必要あるか?」

「へっぽこAIなのニャ」

「これのどこをどう聞くと身代金要求電話になるのでしょうか、姉さん」

「Eロン・ム()()()()()()会・・・・南町()()()()()し隣ニ 広告()()()()会ノ・・・・指て()()()ゅう車スペースガ空イテイ()()()きハ・・・・・強引すぎるっすよね?!?!」


ええ。最後の最後まではちゃめちゃなオチになっています。

これが『私と猫と迷探偵と』なのです、はい。


「最後の最後?ちょっと待ってください。所長はこうして無事なんです。それにこの章のタイトルおかしいっすよね?『グッバイ迷探偵』なんて」


合ってますよ。グッバイ!迷探偵!!


「グッバイってグッドバイっすよね?」


はい。もちろんそうです。


「さよならって意味っすよね?Good bye」


いいえ。


「なんで?!」


スペルが違います。Good buy です。


「は?」


Good buy! 良い買い物をしたね! よっ!掘り出し物!・・・という意味です。

タルト所長が500イィエンで買ったミニミニ掛け軸ですが、狩野A徳の“唐シーサー図屏風(ふう)掛け軸”で、時価100万イィエンなんですよー。


「どひゃー」


驚き方が古いです、スフレさん。


「でもこれで事務所のドアの修理代も出せますね」

「助かったのニャ」

「え?え?ドアの修理?スフレ君、何の話???」

「聞かない方がいいぞ、探偵」


「スフレのお騒がせはともかく、タルト所長も無事で大団円ニャ。『私と猫と迷探偵と』存亡の危機は脱したのニャ。よかったのニャ」


あ、『私と猫と迷探偵と』がこれで終了なのは本当です。


「「「「えええええーーーーっっ?!」」」」


最後の最後って言ったじゃないですか。

100章、キリのいいところで完結です。


「「「「嘘ぉぉぉぉ~~~~~~~」」」」



そんなこんなで、RR探偵事務所の一同とその仲間たちは今日もドタバタ、楽しい1日を過ごしているのでした。

めでたし、めでたし。




「で、結局その女の子は誰だったんだい?」

これにて『私と猫と迷探偵と』完結でございます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

100章のキリの良い所で完結とさせていただきましたが、元より『私と猫と迷探偵と』は短編~中編の作品集となっていますので、また新たなネタを思いつきましたら『私と猫と迷探偵と2』もしくは単発の短編小説として投稿するかもしれません。(今のところはその予定はないですが・・・)

その際にはまたよろしくお願いします。

感想も頂けると嬉しいです。

「読んだよー」だけでも全然OKですので、よかったら足跡残していって下さいね。

ログイン無しでも書き込める設定にしてありますのでどなたでもお気軽にどうぞ。


ここまでお付き合いいただき、本当に本当にありがとうございました。

それでは、またお会いする日まで。

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