SCENE73
GINZA SIXの焼肉店「焼肉山水」で食事をしたあと、ワタシとミホコはスターバックス銀座マロニエ通り店に寄った。あらゆる年代のさまざまな格好をした人たちが、さまざまな目的のためおのおの時間を費やしていた。 ──ワタシ(テロリスト)にとって彼らはまったく別世界に住む人間だった──
そうしてワタシはひと通り店内を見渡したあと、今年の6月にここ銀座で出会い、このスターバックス銀座マロニエ通り店で食事をした侏儒のことをミホコに話しはじめた。 ──この話しをミホコに聴いてもらうため、このスターバックスに寄りたくなったのかもしれない── 突然の不思議な話しにも、ミホコは黙ったまますべてを受け入れる寛容さで熱心に聴いてくれた。 ──あたかも予知していたように違和感なく──
侏儒はね。暮れはじめた都心の空を見上げ、銀座には不釣り合いな燻んだ色の古びたジャケットを羽織っていたの。ワタシは優しい樹肌に触れるように、そっと侏儒の背後に近づき声をかけてみた。
──なにを見上げているの?
振り向いた侏儒は、突然の呼びかけにもまったく驚いた様子をみせず、異様に発達した大きなひたいの下の小さなひとみを、まっすぐワタシに向けてくれた。
──宇宙の子どもたちが泣いている姿を……
──宇宙の子どもたち?
──もうすぐ陽が暮れる。そうしたら東の空に白い一等星が見えるだろう。あれはきっと宇宙の子どもたちの輝きなんだ。しかしこのところずっと泣きつづけている。
そのときワタシは、すでに赫く色づきはじめた都心の空を見上げながら、不思議なほど大きな眼差しに包まれている感覚を覚えたの。まるで産まれる前の、羊水に満たされた胎児のような……
それは、ワタシがシーちゃんを抱きしめるときにいつも感じる、宇宙に優しく包まれる感覚と同じだった。
それからしばらく銀座の喧騒がまったく聴こえなかった。ふと我にかえってあらためて侏儒を見ると、彼女は、燻んだ色のジャケットのポケットから使い古したハーモニカを取り出し、赫く色づく都心の空を見上げながらゆっくりと吹きはじめた。
ラーララララー
ラーララララー
ラーララララーララー
ラーララララー
ラーララララー
ラーララララーララー




