SCENE66
深く省みることのない銀座の街は、いつもの華やいだ響動めきに満ちていた。皆が疑うことなく同じ方向を向き、立ちどまることも振りかえることもない。はたしてこの街で、かつてRimbaudがいったvoyant に出会うこができるのだろうか? 午後の陽射しと争うように煌めくブランドショップのウインドウに視線を向けながら、もはやワタシはこうした華にこころはトキメかなかった。ふと読んだばかりの詩が口を衝く。 ──何故に、永遠の太陽を惜しむのか、僕たちはきよらかな光の発見に心ざす身ではないのか、──季節の上に死滅する人々からは遠く離れて。(『地獄の季節』ランボオ(小林秀雄訳))
ザ・ペニンシュラ東京ホテルの無機質で眩い照明の洗面台前で、黒のトップスとブルーのギンガムチェックミニのワタシは、左腕にかけていた水色のバンドバックからiPhoneを取り出した。ちょっと頭を傾けすましたまま自撮りを試みる。以前、同じサロンモデルのマユとよく動画を撮って、TikTokに投稿していたことが蘇る。
真新しいビルの上質で解放感のあるエントランスホールに、暖色系の照明にやさしく照らされた背丈ほどの高さのクリスマスツリーが飾ってあった。白を基調としたライトやカラフルなガラスボールが宝石のように煌めいている。
ベージュのバケットハットをかぶったワタシと同じサロンモデルで黒のベースボールキャップをかぶったマユは、思わず惹きつけられたようにTikTok用の動画を撮影した。クリスマスツリーの前で向かい合い両手を合わせて大きなハートのかたちをつくったり、撮影のため床に置いたiPhoneに向かって勢いよく走りより顔を近づけていろいろなポーズをとったり。もうおかしくなって大笑いをしたふたりの姿が、クリスマスツリーに飾ってある大きく透明なガラスボールに記念写真のように映っていた。
当時、22歳のワタシは、ポニーテールにライトピンク色の大きな耳が垂れたブタの顔が真ん中にあるカチューシャをし、セレクトモカのピンクニットのディズニーコーデを纏い、この地球のピンク色のテロリストになることを決心した。まだシーちゃんと出会う前だった。
──もう永いことマユにも連絡していないなぁ。
眩い照明に照らされた鏡のなかのワタシは、ふっとため息をつく。ハリがなく少し肌が荒ているような気もする。あとから入ってきた同年代ぐらいのロングのレイヤーカットの女性が、となりの洗面台で慌ただしく化粧をはじめ、ワタシの容姿が気になるのかチラッと一瞥した。彼女の後ろを通ると、ほんのりTOM FORDの甘酸っぱいチェリーの香りがした。鏡のなかのレイヤー女子は、ふたたび挑むようにワタシを目で追っていた。
この東京の五つ星ラグジュアリーホテルを訪れた理由は人と会うためだった。ワタシが、彼女 ──ファッションモデルでインフルエンサー── のInstagramのアカウントをフォローしたことをきっかけにSNS上で交流がはじまり、 ──以前、モデルの同じ撮影現場で見かけたことはあったが── 今回はじめて会うことになったのだ。彼女は30代の二児の母親で、シングルマザーとは思えないほど若々しくエレガントで美しかった。
初対面の彼女は、まっすぐワタシを凝視していった。
──前首相を暗殺した女の子は、わたしの死んだ姉の娘のようです。
愛犬シーズーのシー




