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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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SCENE59



 ──a moist cloud of darkness,feminine,

heavy,and the myth says,inexpressibly sorrowful──

 ──暗黒の湿った雲が立ちのぼっていた。女性的な、重い、そして神話にかたられているように、表現しようもなく悲しみにみちた。──

 (イギリスの女性思想家キャスリーン・レインによるウィリアム・ブレイクの論究より)



 いつもの雲透(くもす)きの春の光のような笑顔はなかった。先に着いていた春子さんは、以前も利用したGINZA SIXの「だるま きわ味」という串揚げ店の個室の解放的な一面窓から、ソフィスティケートされた銀座の夜景を見つめていた。LOUIS VUITTONのツイードワンピース姿の彼女は、まるで聖玻璃(せいはり)のような比類ない美しさだった。

 

 ── 露巳(ロミ)代表は、今回の千尋(チヒロ)ちゃんの自首についてココロをひどく痛めておられます。仲間である侏儒(こびと)たちに救援をお願いしたけれど、侏儒(こびと)たちはひとりの若き使者として千尋(チヒロ)ちゃんの気持ちを何より大切にされたようです。


 ──七人の侏儒(こびと)たちは今どうしてるの?


 ──それはわかりません。ただ警察は共犯の容疑者として侏儒(こびと)たちの行方(ゆくえ)を追っているようです。いずれワレワレにも捜査の手が及ぶとして、露巳(ロミ)代表は「正統的な人間」としてありのままに受け入れる所存です。

 しかしMOMOEさん! アナタはシーちゃんをまもる使命と責任があります。何人(なんびと)もアナタたちに手を触れることを、けっしてワタシどもは許しません。


 そういうと春子さんは、テーブル上のワタシのややこわばった手を残された華奢な右手でしっかりと握り、ようやくいつもの雲透(くもす)きの春の光のような笑顔でワタシを見つめた。


 ──これはある日本人の国際的な作家が、自身のノンフィクション作品で描いていることです。「考えの及ばないようなこと」「受け入れがたいこと」それらは突然やって来る。広島で被爆した人たちのように……


 春子さんの雲透(くもす)きの春の光のような笑顔には、悲しい光が隠されていることを、ワタシはその言葉からはじめて感じた。そしてワタシは声に出さなかったものの、ココロの奥で強く祈り叫んだのだ。


 ──そうよ! ワタシたちは表現しようもなく悲しみにみちたテロリストだ。しかしワタシたちは、「考えの及ばないようなこと」「受け入れがたいこと」さえ覚悟した「正統的な人間」なのだ。




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