SCENE55
暮れはじめた都心の空を見上げる侏儒は、ここ銀座の街には不釣り合いな燻んだ色の古びたジャケットを羽織っていた。ワタシは優しい樹肌に触れるように、そっと侏儒の背後に近づき声をかけた。
──なにを見上げているの?
振り向いた侏儒は、突然の呼びかけにもまったく驚いた様子をみせず、異様に発達した大きなひたいの下の小さなひとみを、まっすぐワタシに向けてこういった。
──宇宙の子どもたちが泣いている姿を……
──宇宙の子どもたち?
──もうすぐ陽が暮れる。そうしたら東の空に白い一等星が見えるだろう。あれはきっと宇宙の子どもたちの輝きなんだ。しかしこのところずっと泣きつづけている。アタイらは、ひとりの遥か遠方からの若い使者を救った。でも「ビック・ブラザー」が追って来ている。おそらく宇宙の子どもたちは、あの若い使者の避けられない運命を想っているのかもしれないね。
ワタシは、すでに赫く色づきはじめた都心の空を見上げながら、不思議なほど大きな眼差しに包まれている感覚を覚えた。まるで産まれる前の、羊水に満たされた胎児のような…… そしてそれは、ワタシがシーちゃんを抱きしめるときにいつも感じる、宇宙に優しく包まれる感覚と同じであった。
しばらく銀座の喧騒がまったく聴こえなかった。ふと我にかえってあらためて侏儒を見ると、彼女は、燻んだ色のジャケットのポケットから使い古したハーモニカを取り出し、赫く色づく都心の空を見上げながらゆっくりと吹きはじめた。
ラーララララー
ラーララララー
ラーララララーララー
ラーララララー
ラーララララー
ラーララララーララー
どのくらい時間が経ったのだろう。一枚の飾られた写真のように、残照にわずかに赫く色づく空と雲のほか、高層ビル群までもが黒く彩色された美しい光景が広がっていた。ワタシは、東の空に輝きはじめた白い一等星を見つめて想った。
──シーちゃんは、宇宙の子どもたちのひとりかもしれないね……




