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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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SCENE49



 よくよくあなたがたに言っておく。一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる。

 ──ヨハネによる福音書。第12章第24節 (カラマーゾフの兄弟 原卓也訳)──



 底から赤銅色(しゃくどういろ)に色づく夕空を背景に、銀座の街に街路灯が(とも)りはじめた。車のベッドライトが星彩(せいさい)のように(まばゆ)い。ビル群の奥の沈みゆく落日を誰も気づかない。水彩画のような夕照(せきしょう)の空はこんなにも美しいのに……

 ワタシは彷徨(さまよ)うように、夕映えた銀座の街を歩いていた。行き交う人々もソフィスティケートされた街並みに相応(ふさわ)しい瀟洒(しょうしゃ)な格好を忘れていない。人々からペシミスティックな表情はみられず、いつもと変わらない(きら)びやかな銀座の風景がひろがっていた。

 ワタシは確かめたかったのかもしれない。遥か遠方からの若い使者が完遂(かんすい)した無二(むに)の行動が、日本という国と国民に何をもたらしたのか? どんな意義があったのか? しかしながら日本中を驚愕させた前首相暗殺事件は、ここ銀座の街になんらかの影響を与えたのだろうか? 人々はそれぞれの人生を立ちどまることなく推進し謳歌しているようにみえるだけなのだが……


 ワタシはスターバックスGINZA SIX店に入って壁ぎわのテーブル席に腰掛けた。今年の春に春子さんと千尋(チヒロ)ちゃんと一緒に季節限定の「さくら ソイ ラテ」を飲んだことをつい昨日のように思い出す。

 席に着いてサングラスを頭に乗せると、向かいに座っていた千尋(チヒロ)ちゃんが、ワタシの左頬にライトブルーの注文レシートを貼っつけた。ワタシは可笑しくてそのままクスクス笑いながら虫歯ポーズ ──頬杖をつくように頬に手を当てる── をとりつつ「さくら ソイ ラテ」を飲みつづけた。満足したかのような笑顔の千尋(チヒロ)ちゃんが、あるJ-POPの歌を口遊(くちずさ)みはじめたのだった……


 一目惚れだった……♪♪♪♪♪



 目を開けると、隣の席の若いカップルの饒舌(じょうぜつ)が聞こえてきた。マッシュヘアの鼻下長(びかちょう)の男とワンレンロングヘアの顔の大きな女の前首相暗殺事件についての会話が……


 ──奥さんの誕生日のホームパーティーで事件は起きたようだけれど、パーティに参加した人の話しによると、実際に前首相を暗殺した犯人ってハタチぐらいの女の子だったらしいよ。信じられないよね、同世代の女の子がそんなことするなんて。まだ複数人の仲間と逃げて捕まってはいないようだけど。


 ──エッ、ホント。信じられない!

 なんでそんなバカげたことをしたのかしら、タクマシすぎるんだけど!


 ──犯人について詳しい情報が報道されていないから報道官制されているのかもしれない。暗殺した理由はよくわからないけれど殺したところで何になるのだろう。変な宗教に入っていて洗脳されていたんじゃないのか。前首相が暗殺されたのだから警察は必死のようだけれど。


 ワタシは自分で左頬にライトブルーの注文レシートを貼っつけ、クスクス笑いながら虫歯ポーズをしてみた。それからLOUIS VUITTONのブラックのショルダーバッグから、以前から愛読している一冊の新潮文庫をとり出し、冒頭部分を囁くように口誦(こうしょう)した。繁栄の森の泉のような華やかな銀座のショーウィンドウに、塹壕(ざんごう)の中の兵士のように映ったワタシと春子さんと千尋(チヒロ)ちゃんの姿を思い出しながら。そして鼻下長の男と顔の大きな女の視線を感じつつ、タクマシすぎるといわれてしまった遥か遠方からの若い使者へ祈りを込めて……


 ──ヨクヨクアナタガタニ言ッテオク。一粒ノ麦ガ地ニ落チテ死ナナケレバ、ソレハタダ一粒ノママデアル。シカシ、モシ死ンダナラ、豊カニ実ヲ結ブヨウニナル。





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