SCENE47
いったい今は何時なのだろう。微睡みのなかディズニーランドの夕映えたシンデレラ城の光景が脳裏から離れない。 ──シャビーローチェストの上に置いてある、暖炉の焔のようなWoodWickのアロマキャンドルが、ときおりパチパチと癒しの音を奏で、となりで熟睡しているシーちゃんのかすかな寝息がさらに癒しの効果を増幅させている──
夕映えたシンデレラ城の正面広場において、遠方からの若い使者を中心に白雪姫に登場する七人の小人 ──ディズニーキャラクターとしての着ぐるみの七人の小人── が手を繋いで回りだした。若いショートカットの使者は、グレーのパーカーのフードを脱ぎややはにかんでいた。《小さきものたち》! ワタシがかれら七人の小人たちを、沈みゆく寂静たる落陽が暗示した崇高な存在として感じたときだった。突然その輪のなかに、一人の大学生らしき「ツーブロックの茶髪の男」が明らかにふざけた様子で ──楽しそうだな、俺も混ぜてくれ! と叫びながら飛び込んできたのだ。
それから大学生らしき「ツーブロックの茶髪の男」はひとりの小人を強引に抱きかかえると、投げ出してしまうほどの勢いでグルグルと自転しはじめた。 ──ワッハッハッ、ワッハッハッ! その光景に大笑いする男女6人の大学生らしきグループのうち、他の若い男たちも悪ふざけを助長させ逃げようとする小人たちを強引に捕まえはじめた。 ──ガキぐらい背が低いけど、こいつらガキじゃないよな! 一人の「ベリーショートの髪型の男」が、小人のフルフェイスのマスクを強引に引っ張った。小人は身体を屈め必死に抵抗したが、ついにはマスクを脱がされてれしまった。小人はしゃがみ込み両手で顔を覆ったが、異様に発達した大きなひたいまでは隠すことができなかった。 ──なんだこいつ、気持ち悪い! 男女の大学生らしきグループから笑い声が消え、悍ましいものへの惧れと嫌悪の悲鳴があがった。
しかしながらワタシは確信したのだ。両手で覆い隠せないほど異様に発達した大きなひたい ──露巳代表と同じような── が、夕映えて赫く染まっているのを、むしろなによりも尊く美しく感じながら……
《小さきものたち》とは、歴史的にまともに人間として認めてもらえなかった存在 ──例えば、ハンセン病患者として── であり、それがゆえに、自分の存在に疑念をもち、もっとも大切なことを敏感に感じられるものたちであったのではないかと。そしてかれらこそ、人々の意識が未明であった遥かむかしから、寡黙に《宇宙の声》に耳を傾けてきた唯一の存在に違いないと。
それからの出来事はごく自然にすみやかに実行された。ショートカットの若い使者は、女子であってもいっさいの手加減なく大学生らしきグループ6人全員へ鉄拳をお見舞いした。一瞬、ワタシの方へ視線を向けたような気がしたが、夕映えた若い使者の顔は眩しくて表情まで読みとれなかった。いつの間にか、七人の小人の姿はなく、呻き声をあげ、うずくまる大学生らしき男女を大勢の見物人が取り囲みはじめた隙に、ショートカットの若い使者こと千尋ちゃんの姿も見えなくなってしまった。あとに残された夕映えたシンデレラ城が、なぜかしらもの悲しそうだった。
シーちゃんが寝返りをうった。同時にWoodWickのアロマキャンドルがパチパチと癒しの音を奏でる。ワタシはそっとシーちゃんの頭を撫でながら、すべてはごく自然に行われることをあらためて悟った。もはや七人の小人から励ましを受けた遥か遠方からの若い使者を、止めることができないだろうことも……




