SCENE46
ワタシは夕映えたシンデレラ城が未来を照らすように輝いてるのを眺めながら、千尋ちゃんが近くにいること感じはじめていた。またそれと同時に、なにやら崇高な存在が彼女に寄り添っていることも、沈みゆく寂静たる落陽が示しているような気がした。
以前、ワタシは《宇宙の声》を聴いたのだろうか?
ポニーテールにライトピンク色の大きな耳が垂れたブタの顔が真ん中にあるカチューシャをし、セレクトモカのピンクニットのディズニーコーデのワタシは、あるとき、この地球のピンク色のテロリストにならなければならないと確信した。それは人類が滅んだ後あるいは数万年先、はるかな未来に知性を持った新しい生き物、もしくは宇宙から知的生命体がやってきて地球の地面を掘ったとき、恐竜の化石、三葉虫やアンモナイトの化石などよりも、たくさんの人類の痕跡が残されているから。 ──アスファルトで覆われたたくさんの道路網や巨大なビル群などの大都市跡。そして土に還ることのない金属やプラスチック類や化学物質等々──
地球は、未来の知性を持った新しい生き物や宇宙の知的生命体のためにも、もう少しだけ変わらなければならないと確信したのは、やはり《宇宙の声》を聴いたからに違いない。
以前、異様に発達した大きなひたいが濃く褐色に染まり、あたかも未開のジャングルから大都会に紛れこんでしまった不釣合いな原住民のような派手な赤いブレザー姿の露巳代表が、清冽な声でワタシに話してくれたことがあった。地球上に生物が誕生して以来ずっとワタシたちを見守りつづけているとさえ思える大きな眼差しをワタシに向けて……
──人々の意識がまだ未明のものであった頃から、わたくしどもは《小さきものたち》とともに生きてきました。おそらくその存在はわたくしどもの理解や定義を超えたものであるでしょう……
しかしながら現在の人間社会では、その《小さきものたち》とともに生きることはとても困難になってきています。なぜならわたくしどもと相対するある巨大な力が《小さきものたち》を脅かすようになったからです!
MOMOE様、あなたは《小さきものたち》がこの世界に存在していることに気づきはじめていらっしゃる。あなたのその予覚にわたくしどもはとても驚かされました。僭越ながら、この度こうしてご一緒にお仕事をさせていただき、わたくしどもはあらためて確信することができました。あなたはある底知れないチカラを内包されていらっしゃいます。そのチカラの根源がどこにあるのかまだ明確ではありませんが、計り知れないチカラであることは間違いありません。ぜひわたくしどもにあなたのチカラをお貸しいただきたいのです。わたくしどもは《小さきものたち》とともに生きつづけていくことを切に願っております……
ふと我に還ると、多くの人々で溢れるシンデレラ城前の正面広場に、グレーのパーカーのフードを目深にかぶった千尋ちゃんが、人々に紛れてじっと夕映えたシンデレラ城を見あげていた。雑多な人々、雑多な会話、雑多な笑い声のなか、寡黙にひとりで夕映えたシンデレラ城を見あげていた。それはまるで遥か遠方からの使者のようだった。
すぐにもワタシが大声で千尋ちゃんの名を呼ぼうとすると、白雪姫に登場する七人の小人 ──もちろんディズニーキャラクターとしての着ぐるみの七人の小人── が、たったひとりで孤独にシンデレラ城をじっと見つめ、しかもグレーのパーカーを目深にかぶった異様な雰囲気の若い女性を案じたのか、あっという間に彼女のまわりを取り囲んだ。そしてひとりの小人が黙ったまま短い両腕を広げ、フードを脱ぎややはにかんだショートカットの千尋ちゃんにハグをすると、残りの小人たちが手を繋いでまわりを回り出したのだ。
《小さきものたち》! 思わずワタシの口から言葉が漏れた。それはまるで露巳代表のいう《小さきものたち》が、孤独で悲しそうな遥か遠方からの若い使者を取り囲み励ましているような光景だった。沈みゆく寂静たる落陽が暗示した崇高な存在とは、《小さきものたち》のことだったのかもしれない。ディズニーキャラクターの小人の姿を借りて、《宇宙の声》に従うまだ若い使者を励ますためにやってきたのだ。




