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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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SCENE44



 生成色(きなりいろ)の壁を背景にシャビーローチェストの上に置いてある、暖炉の焔のようなWoodWickのアロマキャンドルが、ときおりパチパチと癒しの音を(かな)でる。

 フラワーデザインの薄手のレースのカーテンをあけると、いつもと変わらず暗闇に抵抗する無機質な高層ビル群が放つ照明に、夜空は色褪(いろあ)せていた。そんな夜空から星たちを見つけることはむずかしい。山脈のような明治神宮の森は(くら)く眠っていた。

 ソファの上でうつ伏せになって熟睡しているシーちゃんに、そっと腕をまわして抱きしめた。


 ──シーちゃん! 


 シーちゃんはいつも猫のように寝てばかりいる。しかし今夜はなぜか明日の戦いに備えて眠る最前線の兵士のように感じられた。 ──ある底知れない根源的なチカラ── ワタシにはわかっていた。それが目の前のソファの上でうつ伏せのまま、ときおり寝言を発するぬいぐるみのような可愛らしい戦士のもつチカラだということを……

 ふたたび、みずからの存在理由(レゾンデートル)のためやめるわけにはいかないと千尋(チヒロ)ちゃんがいった、次の作戦計画が記された便箋=A4サイズの用紙を手にとった。



 MOMOEさんへ


 自宅で催される奥様のバースデーパーティーに招待されました。ごく少数の特別に親しい者だけが招待されたようです。わたしはこの絶好の機会に、前首相を暗殺することを決心しました。

 おそらく前首相は、もっとも「ビック・ブラザー」に近い日本人であり、その影響力をもって陰で国を(あやつ)(やから)なのです。どれだけの少女が犠牲になってしまったことか。けっして許すわけにはいきません。孤児であるわたしは露巳(ロミ)代表に救っていただいて今日があります。少しでも恩に報いることがわたしの切なる願いです。わたしのわがままを許してください。

 MOMOEさん、姉のように慕っておりました。


                 千尋(チヒロ)



 具体的な日時が記載されていなかったため、現在春子さんが、前首相の奥様の生年月日を調査していた。千尋(チヒロ)ちゃんの自宅マンションに春子さんが急行したが不在だった。携帯電話も通じない。千尋(チヒロ)ちゃんは単独で作戦を決行するつもりなのだ。

 ワタシはベランダに出て、祈るように曖昧でけむった夜空のなかから星たちの(またた)き見つけだそうと試みた。シーちゃんの寝息が、都心の繁栄に溺れ盲目になった人間の欲望に満ちた狂騒に紛れて聴こえてきた。




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