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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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SCENE42



 いったい今は何時だろう。微睡(まどろ)みのなかずっと心奥(しんおう)に流れていたひとつの記憶が、忘れていた大切なことを思い出すように蘇った。 ──シャビーローチェストの上に置いてあるはずのBAIESのディプティックキャンドルの炎が仄かに見える。ワタシはマンションの自室のベットでシーちゃんと一緒に寝ているのだろう。慈しむようなささやかな寝息も聴こえる。しかし身体は鉛のように重い──

 それはアパレルサイトのモデル撮影が、巨大なラグジュアリーホテルのガラス張りのクリスタルチャペル内で行われたときの光景だ。 ──スタイリスト、ヘアメイク、カメラマンの全員がプロフェッショナルな若い女性だった── 休憩をはさんで夕方に撮影が終了すると、ホテル内のプライベートのミーティングルームに通された。異様な容姿の子供の背丈しかない依頼主が窓辺に立ったまま、海岸や対岸の都心など夕焼けがすべてを赫く覆いつくす光景を見つめていた。異様に発達した大きなひたいが濃く褐色(かっしょく)に染まり、派手な赤いブレザーがどこかの民族衣装のようにさえ感じられた。あたかも未開のジャングルから大都会に紛れこんでしまった不釣合いな原住民のように…… やはり若い女性スタッフが、上品な陶器のカップに入れたコーヒーをテーブルにそっと置いてくれた。彼女たちスタッフの立ち振る舞いは、撮影のときから完璧なほど行き届いていた。

 ワタシと撮影に同行してくれた友人のマユが上質なコーヒーを口にすると、ようやく依頼主は振りむいてゆっくりと話しをはじめた。彼女の清冽(せいれつ)で美しい声 ──その異様な容姿からは想像できなかった── は、地球上に生物が誕生して以来ずっとワタシたちを見守りつづけている大きな眼差しのように、その美しく懐かしい声が、ワタシの心奥にまで響いてきた。


 ──人々の意識がまだ未明のものであった頃から、わたくしどもは《小さきものたち》とともに生きてきました。おそらくその存在はわたくしどもの理解や定義を超えたものであるでしょう……

 しかしながら現在の人間社会では、その《小さきものたち》とともに生きることはとても困難になってきています。なぜならわたくしどもと相対(あいたい)するある巨大な力が《小さきものたち》を脅かすようになったからです!

 MOMOE様、あなたは《小さきものたち》がこの世界に存在していることに気づきはじめていらっしゃる。あなたのその予覚にわたくしどもはとても驚かされました。僭越(せんえつ)ながら、この度こうしてご一緒にお仕事をさせていただき、わたくしどもはあらためて確信することができました。あなたはある底知れないチカラを内包されていらっしゃいます。そのチカラの根源がどこにあるのかまだ明確ではありませんが、計り知れないチカラであることは間違いありません。ぜひわたくしどもにあなたのチカラをお貸しいただきたいのです。わたくしどもは《小さきものたち》とともに生きつづけていくことを切に願っております……


 依頼主は異様に発達した大きなひたいに覆われた小さな(まなこ)で、ワタシをじっと見つめた。そのまっすぐな眼差しに偽りはなかった。背後のいちめんの夕空が落陽の豊潤な光に赫々と燃えている。ひとつの雲が何かに似ていた。シーちゃんだと思った。

 そうしてワタシは微睡みのうちの記憶の草原を彷徨いながら、依頼主はワタシが気づきはじめているというが、《小さきものたち》とは、いったい人間なのかそれとも人間ではないのか、どのようなものなのだろうと思い巡らせた。




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