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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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SCENE2



 Called or not called, the god will be there

 ──呼ばれようと、呼ばれまいと神は存在する

              『ユング自伝』



 今日は、朝からスタジオでVALENTINEの撮影があった。

 最近、aespaのウィンターちゃんの真似をしてインナーカラーをいれたボブをポニーテールにし、お気に入りのRANDEBOOのベージュのCharm warmer knitを着た。 ──肩が開いているオシャレなニット── CHIYOCOのチョコレートサンドの箱型のパッケージを手にして、笑顔でポーズをくり返す。わざと恥ずかしそうに顔を箱形のパッケージで隠してみたり……



 half day off!


 午後早くには撮影が終了したので、同じサロンモデルのマユとスタジオの近くで昼食をとったあと、「東急プラザ表参道原宿」屋上のケヤキなどの緑(あふ)れる「おもはらの森」の天空のスターバックスでコーヒーを飲んだ。浮気をした彼氏と別れたマユは、しばらく大阪の実家に帰っていたが、ようやく東京に戻ってきたばかりだった。

 屋外席の上空は、雲のない聡明な蒼穹(そうきゅう)がひろがり、久しぶりの日光浴に肌が光合成を試みているようだった。

 

 ──もうふっ切れたの?


 ──まあ、そんなとこかな、実家に帰っているあいだヒマだったから少し本を読んでみた、以前、MOMOEが(すす)めてくれた村上春樹とか。


 マユはアイボリーのトートバックから、おもむろに『1Q84 BOOK1〈4月-6月〉前編 』の新潮文庫を取りだした。手にとるとワタシは、午後の陽光に白く(またた)かせながらパラパラとページを(めく)った。すっかり忘れていたけれど、確かにワタシはマユに村上春樹を薦めていた。とくに運命的に十字架のような存在を感じたこの『1Q84』を……

 おそらくワタシは、この小説の女主人公青豆に、初恋のようなときめきというよりも、十字架を背負いゴルゴタの丘へ向かってヴィア・ドロローサを歩いた、ナザレのイエスにその姿を重ね合わせていたのだ。



 マユと別れたあと、ワタシはひとりで喧騒に満ちた東京の雑踏を彷徨うように歩いた。

 街灯とウインドウの照明が(とも)りはじめた銀座のビルの合間から、底から(あか)く色づく空を見つけた。こんなにもたくさんの人で(あふ)れかえっているというのに、誰にも気づかれず静かに赫く色づきはじめた落日を……

 

 ふと、ワタシは瞬く自分を感じた。

 すぐに右手を高くあげてタクシーに乗った。行き先を告げ、赤いボストンバックからライトピンク色の大きな耳が垂れたブタの顔が真ん中にあるカチューシャを取りだした。


 Called or not called, the god will be there

 ──呼ばれようと、呼ばれまいと神は存在する


 シーちゃん、とこころの奥でつぶやいた。


 夕暮れに染まる東京の街並みが、スナップ写真のように次々と流れていく。それらはけっして懐かしい写真ではない。タクシーの中年運転手が、バックミラーから怪訝そうにワタシを見る。

 ポニーテールにライトピンク色の大きな耳が垂れたブタの顔が真ん中にあるカチューシャをしたワタシと、その背後の赫い落日を……




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