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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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39/77

SCENE37



 PM12:00


 あたかも人びとの価値観が多様化したかのように、丸ビル、新丸ビルを中心とした丸の内のオフィス街は新しい時代に迎合していた。洗練された街並みに、多くの人びとは嬉々として溶け込もうと試みるが、違和感は(ぬぐ)えない。

 窓際のテーブルを春の日差しがあたたかく抱擁し、ワタシと春子さんは、東京駅が一望できる新丸ビルのイタリアンレストランで昼食をとっていた。

 雲透(くもす)きの春の光のような笑顔の春子さんは、いつものように微笑みを湛えていた。彼女はどんなときでも微笑んでいる。いかなる苦境に立たされても微笑みを絶やさない。ワタシも食後のコーヒーを啜るように飲みながら、(うら)らかな春の日差しを ──楽しげに青春を謳歌する同世代の女の子のように── 満喫していた。


 ──丸の内のオフィス街も、ずいぶんと洗練され新しくなりましたね。


 ワタシのことばに、春子さんはやはり雲透(くもす)きの春の光のような微笑みをかえしたのち、囁くように口誦(こうしょう)した。


 ──いちめんのいちめんの諂曲(てんごく)模様!


 ──諂曲模様?


 ワタシの問いに、窓外の行き交う人びとへ視線を移した春子さんは、やはり微笑みながら応えてくれた。


 ──宮沢賢治の『春と修羅』の一節よ。諂曲とは、自分の意思を曲げて他人にへつらうことやその様子のこと。賢治がどんな思いを込めてその言葉を使ったのかはわからないけれど。




 PM12:30


 麗らかな春の日差しの、人通りの多い丸の内オフィス街の通り沿いに、数台の黒塗りの高級車とともに1台の選挙カーが停まった。この春行われる東京都知事選挙の与党立候補者の選挙カーだ。ワタシと春子さんは、この新人女性立候補者の応援演説のため、前首相が姿を見せるという情報を(あらかじ)め入手していた。

 女性立候補者とともに前首相の登場に、丸の内オフィス街は騒然となり、多くの聴衆が集まりはじめていた。その聴衆の視線の先には、彫りの深い日本人離れをした容貌の前首相の姿があった。


 ──MOMOE様! 彼の顔をよく目に焼き付けておきましょう。いずれワタシたちの前に立ちはだかる最大の敵となるでしょうから!


 春子さんのことばに大きく頷くと、前首相がマイクを握って選挙カーの上から流暢(りゅうちょう)に応援演説をはじめた。多くの聴衆が一律に傾聴している。不意のジョークに聴衆はどっと笑った。ワタシは、春子さんが口誦した賢治の『春と修羅』の一節を思い浮かべずにはいられなかった。


 ──いちめんのいちめんの諂曲模様!


 お揃いのLOUIS VUITTONのツイードワンピース姿のワタシと春子さんが並んで立っていると、少なくない数の聴衆が振り向いた。モデルさんかしら、という若いOLから羨望の声も聴こえた。すると応援演説中の前首相が、聴衆が振り向く先のワタシと春子さんを一瞥したように思われた。ワタシはこころの奥底で囁きながら、右手の人差し指の伸ばし親指を立てピストルのかたちを作り、前首相に向けてバキューンと撃つ真似をした。


 ──ワタシたちはモデルというよりも、繁栄に反旗を(ひるがえ)した孤独で美しいテロリストよ! あなたはいずれワタシたちの標的になるはずですから、必ずやあなたの裏の姿を(あば)いてみせますから!




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