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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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37/77

SCENE35



 クリスマスを迎えようとする師走の都心は、すっかり陽が落ち、いつもの(たか)ぶる喧騒に満ちていた。皆が疑うことなく同じ方向を向き、立ちどまることも振りかえることもない異常な興奮に酔っている。高層ビル群は空高く光を放ち、夜の狂騒が空まで揺らす。夜空は人間の吐く膨大な欲望に色褪(いろあ)せていた。 ──今夜のワタシは、チャコールグレーのニット帽に同じくチャコールグレーのニットワンピース、アウターは衿ボアのカーキ色のブルゾン──


 以前も利用したGINZA SIXの「だるま きわ味」という串揚げ店の個室を予約。 ──密室の方が好ましいのは当然── 先に着いていた春子さんとふたりだけの夕食。LOUIS VUITTONのツイードワンピースの春子さんは、まるで聖玻璃(せいはり)のような比類ない美しさだった。銀座中央通りを一望できる掘りごたつ式の個室のため、部屋に入るなり解放的な一面窓から、ソフィスティケートされた夜の銀座の景観が跳びこんできた。


 今夜は、ワタシたちの任務については触れないつもり。珍しく春子さんは生まれ故郷の話しをしてくれた。東北の杜の都。東日本大震災で両親を亡くし親戚を頼って東京へ出てきたんですと、春子さんは、一瞬雲透くもすきの春の光のような微笑みを浮かべた。

 ワタシは個室の一面窓から、華やかな夜の銀座中央通りを見下ろした。溢れるばかりの輝かしさ、資本主義経済社会の繁栄を象徴する絢爛(けんらん)な世界。そこは独裁者「ビック・ブラザー」が君臨する世界なのだ。繁栄に溺れ盲目になった人間を、いとも簡単に空気のようにごく自然に支配する独裁者。そして現実にはワタシも、この華美な世界の片隅でモデルとして生きてきた。不本意でも「ビック・ブラザー」のちからの恩恵を受けながら……


 個室の一面窓に、ワタシと春子さんの姿が、銀座中央通りの絢爛な様相を背景に映った。まるで繁栄に反旗を(ひるがえ)した孤独で美しい姉妹のテロリストのように……



 露巳(ロミ)代表からの情報では、巧妙に自殺という体裁で「ビック・ブラザー」によって闇に(ほうむ)られた少女売春クラブのリストにあった顧客のうち、自殺を図ったものの未遂に終わった男は、前内閣総理大臣の公設秘書から衆院議員選挙に当選したばかりのAだった。すでにAは、緊急搬送された病院を退院し都内の成城の自宅マンションで療養中だという。ディズニーリゾート・オフィシャルホテルの別室を出ようとした際、異様に発達した大きなひたいに隠れるようなひとみの露巳(ロミ)代表が気になることをいった。


 ──前首相の秘書だったというのが引っかかります。初めから「ビック・ブラザー」は、この男を殺すつもりがなかったのではないでしょうか? 




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