SCENE34
赤銅色に色づく海面がそのまま夕空と同調し、遠い幻のように朦朧とした高層ビル群に赫い落日が隠れようとしていた。都心の喧騒から逃れ潮の香りさえ漂う舞浜のディズニーリゾート・オフィシャルホテルの一室で、ふたたびワタシと春子さんは、露巳代表から新たな指示を告げられた。黒人のように縮れた短い髪に異様に発達した大きなひたいに隠れるような、しかしながらまっすぐ未来を見据えた澄んだひとみの露巳代表から、じっとあたたかく見つめられながら……
──私たちは踏みこんではいけない巨大な闇の力「ビック・ブラザー」を敵にしています。それは想像を超えた大きな覚悟が必要だということです。まるで地球の中心部の核が変化したかのように、目に見えない世界の中心が変わりはじめています。ニュースでも報道されているように、若手有望株だった与党の衆議院議員、大手電気メーカーの副社長、都内の開業医等々、みな社会的責任が非常に高いとされる有力者が、同じ一日にまとまって自殺を図り死亡しました。
おそらく「ビック・ブラザー」によって闇に葬られたのでしょう。手を加えた事実がわからないように、巧妙に自殺という体裁で消されてしまったのではないかと思われます。私たちは、真実を確かめるべく調査しました。その結果、自殺を図ったものの未遂に終わった男がいることが判明しました。
MOMOE様、春子さん! その生き残った男に会って真相を確かめてほしいのです。「ビック・ブラザー」の存在につながる何らかの手がかりが見つかるかもしれません。ふたりにはまた危険な任務となるでしょうが!
ワタシは、このディズニーリゾート・オフィシャルホテルの別室で、今も療養生活を送る陽葵ちゃんのことを思っていた。ライトグリーンの遮光カーテンが閉められた寝室で、フランス人形のような細面の美しい陽葵ちゃんは、まだ小学生だというのに労役に疲労した囚人のようだった。ふつうの子供が歩むべき常道から外れたまま、肉体的にも精神的にも追いつめられた小枝のような細い身体は、じっと何かに耐えながら生きていた。このようにも疲弊した子供が存在する現実が、にわかに受け入れ難い虚構のようにさえ感じられ、ワタシは、行き場のない憤怒を抑えながら彼女が目覚めるのを待ったのだった……
露巳代表は、いくぶん遠慮がちながらワタシと春子さんを励ますように話しをつづけた。
──わたしたちと「ビック・ブラザー」との戦いがどのような結末を迎えるのか予測はできません。しかし、いまわたしは、新しいコミューンの構想を持っています。もちろんそれは「ビック・ブラザー」の力が及ばないコミューンです。もし仮に「ビック・ブラザー」との戦いに疲弊してしまったとき、わたしたちが帰ることのできる場所として。日本のなかに日本の権力や法から独立したわたしたちのコミューンを……




