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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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35/77

SCENE33



 ──なぜ何もないのではなく、何かがあるのか── 今もなお宇宙は膨張しつづけているという。まるであと戻りできない使命に従順にしたがい無数の銀河と意思疎通を図りながら、すべての祈りの先にある唯一の目的に向かうかのように…… 都心のけむった曖昧な夜空には、今夜も従順に煌めく星たちを見ることはできなかった。

 生成色(きなりいろ)の壁で統一されたワンルームマンションに戻り、現実世界に引き戻されたワタシは晩ご飯の用意をはじめた。テレビからは、連続して発生した不可解な死亡事件について、NHKのアナウンサーが緊張した声で喋りつづけている。どうやら時間を延長して放送をつづけているらしい。 ──朝目覚めてからワタシはなにかの異変を感じ、まるで地球の中心部の核が変化したかのように、目に見えない世界の中心が変わりはじめているような気がしてならなかったのだが── ニュースによると、若手有望株だった与党の衆議院議員、大手電気メーカーの副社長、都内の開業医等々、みな社会的責任が非常に高いとされる有力者が、同じ一日にまとまって死亡していた。はじめワタシは、両サイドに綿あめのような膨れた癖毛を残したまま滑らかに禿げあがった中年男を、雲透(くもす)きの春の光のような笑顔の春子さんが、残された右手に持ったアイスピックのような鋭利なものを男の後頭部に差し込み自然死にみせかけて殺害したように、露巳(ロミ)代表たち「株式会社小さき人たち」の手によって抹殺されたのかと思った。 ──顧客リストに記載された有力者たちが、これ以上少女売春をくり返さないために── しかし普段よりも緊張した面持ちの男性アナウンサーは、その推測を否定するように死亡した有力者の多くが自殺だったと報じていた。

 すぐに春子さんへLINEを送ると、春子さんはこう返事をくれた。


 ──とても驚きました。少女売春クラブの顧客リストに名前があったかなり社会的地位の高いメンバーが次々と死んでいます。これらは私どもの手によるものではありません。おそらく「ビック・ブラザー」によって闇に(ほうむ)られたのではないかと推測しています。「ビック・ブラザー」の存在がごく僅かであれ明らかにされることを良しとしないため、しかも手を加えた事実がわからないよう彼らの多くが巧妙に自殺という体裁で消されてしまったのではないかと。現在、私どもでも真実を確かめるべく調査中です。


 翌朝、すべての恵みである陽の光が遮光レースカーテンの隙間からさしこむのを感じながら、あらためて昨日届いていた手紙を読みかえした。数ヶ月前、落日に彩られた夕空を背景に、ベージュの髪に左耳にTiffanyのサークルピアスをしたオトコとワタシは見つめあった。オトコはすべてを透かした清冽(せいれつ)なこころで頷くと、左手で握っていた赤いリードをワタシに差しだしてくれた。そのカレの手紙には、シーちゃんとの共生における生の微光というものを描いてほしいと書かれてあった。

 ワタシには、お尻を振りながら歩くこのほんの小さな生命が、食物連鎖の頂点に立つ人類の救世主のように思えていた。ふわふわの稲穂のように滑らかに輝く体毛の小さな救世主との共生の物語を描こうと思った。まだとなりで寝息をたてている滑らかな大毛が微光に包まれたシーちゃんを抱きしめながら、物語のタイトルを『シーとピンク色のテロリスト』に決めた。




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