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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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SCENE29



 約138億年前の宇宙のはじまりビックバン以来、宇宙は膨張しつづけひろがりながら、何らかの意志を示しているのかもしれない。なのに、どうして都心の夜空に星たちは見えないのだろう? そしてこのネイビー色のスーツに、両サイドに綿あめのような(ふく)れた癖毛を残したまま(なめ)らかに禿げあがった中年男をはじめ、周りにいる人間は、なぜ夜空に星たちが見えないことを疑問に思わないのだろう? いや違う! そもそもそれ以前に、周りにいる人間は夜空を見あげようとさえしていないのだ。ほとんどの人間にとって、夜空に星たちが見えないことなどどうでもよいことなのかもしれない。それよりも肌の調子が悪いことや、彼氏の浮気のことや、今夜の食事のことの方が、何倍も大切なことなのかもしれない。いつもワタシは夜空を見あげてきたけれど、ワタシが特別なだけであって、ほかの人々の方が正常なのかもしれない。しかしとワタシは思うのだが……


 高層ビル群は空高く散光を放ち、あらゆる都心の明かりが夜空をけむった曖昧なものにしていた。夜の喧騒が空まで揺らし、地鳴りのような異様な興奮が銀座の街を歩くワタシに伝わってきた。ふだんのワタシは、フリーランスのモデルをやって流行の最前線を歩き、都心のソフィスティケートされた生活を楽しんできたけれど、この欲望に満ち歪んだ経済至上主義社会に疑問を持つようになっていった。そうして、ピンク色のディズニーコーデのワタシは、この地球のテロリストにならなければならないと決意したのだ。

 人類が滅んだ後あるいは数万年先、はるかな未来に知性を持った新しい生き物、もしくは宇宙から知的生命体がやってきて地球の地面を掘ったとき、恐竜の化石、三葉虫やアンモナイトの化石などよりも、たくさんの人類の痕跡が残されているだろう。 ──アスファルトで覆われたたくさんの道路網や巨大なビル群などの大都市跡。そして土に還ることのない金属やプラスチック類や化学物質等々── 地球は、未来の知性を持った新しい生き物や宇宙の知的生命体のためにも、もう少しだけ変わらなければならないのだ。


 禿げあがった中年男のやや後ろを歩くワタシの位置は、GPSによって露巳(ロミ)代表らが把握していた。 ──ワタシがつけている黒ぶちメガネには超高性能マイクと高画像カメラが取り付けてあって、中年男との会話もすべて送られていた── そして数メートル後ろには、左腕を失った男装の春子さんが追尾している。禿げあがった中年男が振りかえった機会を捉えて、ワタシは尋ねることも忘れていない。


 ──銀座のホテルなら、やはりザ・ペニンシュラ東京かしら?


 ──お! よくわかったな!


 ワタシは、黒ぶちメガネに手をそえ高画像カメラで、両サイドに綿あめのような膨れた癖毛を残したまま滑らかに禿げあがった頭頂部を一つ叩いた中年男の画像を撮影しながら、できる限り嬉しそうな偽りの微笑みを浮かべた。


 露巳(ロミ)代表が頷くと、すぐに「株式会社小さな人たち」の若いスタッフが動き出した。

 春子さんが左腕を失ってまで手に入れた顧客リストを入念に調査した結果、間違いなく日本社会がひっくり返ってしまうほどの主要な人物が記載されていたが、ひとりだけ身元が不自然な男がいることがわかった。この顧客リストに名を連ねている連中は、皇族を筆頭にかなり社会的地位の高い人間ばかりだが、この中年男はあるIT企業のいち社員に過ぎなはかった。しかし予想通り予約されているホテルは、銀座でも一二を争う五つ星のラグジュアリーなホテルだ。どこでこの両サイドに綿あめのような膨れた癖毛を残したまま滑らかに禿げあがった中年男が、金銭を捻出しているのか? 

 ザ・ペニンシュラ東京のベージュ色の豪華な外観が見えてきた。やはりワタシは、膨大な欲望に色褪せけむった曖昧な夜空を見あげたが、星たちは見えなかった。




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