SCENE1
生成色で統一されたワンルームマンションの遮光カーテンをあけると、灯りはじめた東京の多様な街並みの上空は、いちめんピンク色のうね雲に彩られていた。あまりにも美しい色彩だったのでそのまま窓もあけると、瞬時に、真冬の冷気とともに夕暮れときの大都会の膨大な喧騒が飛びこんできた。大自然が織りなす壮大なパノラマと、人類の叡智ともいえる大都会のビル群が、反発し合いながらも溶けこんでいる光景がとても不思議だった。
ふと、シャビーローチェストの上に置いてあるBAIESのディプティックキャンドルの炎が消え、生成色の壁を背景に芯から白っぽい煙の糸が立ちのぼっているのに気がついた。さらに次の瞬間、となりに置いてあったライトピンク色の大きな耳が垂れたブタの顔が真ん中にあるカチューシャの、垂れ下がった大きな耳がビクんと跳ねあがった、ような気がした。
──ま、まさか!
情けないことにまだワタシは、テロリストとしてはなんの実績もない頭でっかちな半人前だった。 ──実績があれば呑気に夕焼けなど眺めているヒマもないはずだが── テロリストとしての標的たる相手が誰であるのか、具体的に把握もできていなかった。ときおり何となく考えてみても ──人類すべて? あるいは国の権力者? あるいは人間が創造した神? あるいはとてもつまらないが浮気をするような男ども?── その程度で、テロ自体がどれほど命をかけた危険な行為であるのか、真に理解できていなかったかもしれない。
だからこそ、ライトピンク色のブタの垂れ下がった大きな耳が跳ねあがったということが、実際にテロ実行の合図だということに、すぐにも明確な意識が向かなかったのだ。
──え? いまブタの耳が跳ねあがったような気がしたけれど、ほんとうに跳ねあがったのかしら、それならテロ実行の合図のはずよね。
ようやく、真冬の冷気を遮断するため窓を閉めたワタシは、生成色の壁を背景にシャビーローチェストの上のBAIESのディプティックキャンドルの芯から立ちのぼる白っぽい煙の糸とともに、ふたたび、となりのライトピンク色のカチューシャのブタの垂れ下がった大きな耳を注視した。
大都会の細胞のひとつとしてピンク色の夕焼け空に照り映えたワンルームが、コーヒーに溶けこむクリームのように、次第にいちめんピンク色の空と一体となっていく。ワタシ自身も、同じようにピンク色の夕焼け空と一体となって溶けこもうとした、その瞬間、ふたたび、ピンク色のカチューシャのブタの垂れ下がった大きな耳が、ビクんと跳ねあがったのだった……




