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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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28/77

SCENE26



 ──a moist cloud of darkness,feminine,

heavy,and the myth says,inexpressibly sorrowful──

 ──暗黒の湿った雲が立ちのぼっていた。女性的な、重い、そして神話にかたられているように、表現しようもなく悲しみにみちた。──

 (イギリスの女性思想家キャスリーン・レインによるウィリアム・ブレイクの論究より)




 PM19:00


 フラワーデザインの薄手のレースのカーテンを開けたまま、都心の高層ビル群の明かりを灯籠に見立てて眺め、ワタシは春子さんが作ってくれたマッサマンカレーを、これも春子さんが持参した上質な赤ワインをいただきながら食べていた。シャビーローチェストの上に置いてあるWoodWickのアロマキャンドルが暖炉のようにパチパチと癒しの音を奏で、音楽プレイヤーからはバッハの『ヨハネ受難曲』が流れている。濃厚なコクと芳醇な香りが感じられるマッサマンカレーはとても美味しい。

 ワタシたちにとって、ナナコちゃんの死は殉職=受難による死にちがいなかった。ワタシの手のなかでナナコちゃんの幼いぐらいの細い手が、生死の境を彷徨いながらいのちのPowerを伝えてくれた。iPhoneから逼迫(ひっぱく)した事情を伝えた際、春子さんは雲透(くもす)きの一条(ひとすじ)の春の光のような涙声で ──祈りましょう! といった。

 ワタシはナナコちゃんの幼く細い手を握りながらprayer(祈り)つづけた。すでに熟睡しているはずのシーちゃんの寝顔と寝息に向かってprayerつづけた。

 しかし奇跡はおこらなかった。 ──自然(ピュシス)界のなかで死ぬことは利他的なこと── だと証明するかのように、ナナコちゃんは一粒の麦となった。


 ほんとうの妹のようであり、あの日、危険な任務を承諾した春子さんは、すべての責任をひとりで担おうとしていた。それでも気丈に、同じ現場でナナコちゃんをまもってあげることも救ってあげることもできずに嗚咽をつづけるワタシを、もうひとりの妹のように慰めてくれていた。しかもいつものように雲透(くもす)きの一条(ひとすじ)の春の光のような笑顔で……


 露巳(ロミ)代表のかなしみも深く、そしてその決意はどんなに鋭利な剣でさえもその心臓を貫くことが不可能なほど堅固になっていた。「株式会社小さな人たち」は深遠なかなしみとともに、あらためて巨大な闇の力「ビック・ブラザー」に宣戦布告を誓ったのだ。微力ながらもワタシもともに戦うことを誓った。この地球のもっとも尊く美しいものを脅かす力に対するピンク色のテロリストとして…… ──ナナコちゃんの一粒の麦が、豊かに実を結ぶように──




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