SCENE20
ラーララララー
ラーララララー
ラーララララーララー
ラーララララー
ラーララララー
ラーララララーララー
涙で視界が朧気になっていく。はるか宇宙から届けられたような信じられないほど清澄な、すべてを美しいと愛した天使のような歌声はつづいた。となりの春子さんの二重まぶたの美しいひとみから涙が頬へとつたっていく。ワタシは玲瓏な美しい歌声に鳥肌がたつように全身を震わせ一歩も動くことができなかった。頬に触れる空気そのものが、この世のすべてのかなしみを背負った優しさに包まれていくのを感じた。蒼い夜空に白く光る一等星からはるか宇宙全体が、森羅万象あらゆる自然界の生き物が、そして有象無象の人間が蔓延るるこの都心全体が、清浄な空気に包まれすべてが再生されようとしていた……
ふと朧気な視界に、 ──露巳代表の姿の奥に── 高層マンションの白く膨らむ照明に照らされた入り口前に、琢磨というツイストスパイラルパーマの若い男たちの姿が映った。彼らもまた金縛りにあったように身動きできずにいた。都心全体のあらゆる生き物の精霊が美しい歌声とともにあった。
やがて露巳代表は、すべてのちからを使い果たしその場に崩れ落ちた。すぐににとなりで待機していた若い女性スタッフが、子どもほどの身長の露巳代表をその細い腕で抱きあげた。そしてワタシたちが見守るなか彼女は露巳代表を慈しむようにゆっくりと歩いてホテルの入り口へと向かった。彼女の細い腕に抱かれた異様に発達した大きなひたいの露巳代表は、無垢な赤ちゃんのように眠っていた。
露巳代表を抱いた若い女性スタッフが、白く膨らむ照明のホテルの入り口へ姿を消すと、ふたたびワタシは向かい側の高層マンションの照明が灯る入り口へ視線を移した。しかしすでに琢磨というツイストスパイラルパーマの若い男たちは戦意を喪失したのか姿はなかった。ワタシはとなりの、ハンカチで涙を拭っている春子さんに微笑みかけていった。
──ほんとうに奇跡が起きたようでした。
春子さんもいつもの雲透きの春の光のような微笑みをかえしてくれた。
──はい、MOMOE様! 敵も退散したし、わたしたちも引きあげましょう!
見あげた夜空は、すでに白く光る一等星の姿はなく、いつものけむった曖昧な都心の夜空に戻っていた。
──シーちゃん! ありがとう、ぐっすりおやすみなさい。




