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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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SCENE17



 ──大事なお客様? 陽葵(ひまり)ちゃんその大事なお客様ってまさか!


 そこまで言葉に発すると、ワタシと春子さんはそれ以上何も言えなくなった。深く俯いたまま怯えはじめた陽葵ちゃんをこれ以上傷つけるわけにはいかない。ようやくワタシと春子さんは事の次第を理解できてきたが、それこそ言葉に発するのさえ(おぞ)ましいことだった。陽葵ちゃんのいう大事なお客様とは、まさに先日ニュースで報道され問題となったデートクラブの顧客と思われる。


 ──赤坂のウィークリーマンションで監禁されていた小学校6年生の少女4人が無事に保護されたものの、犯人とおぼしき20代後半の男性が同じマンションの一室で煉炭(れんたん)自殺を図るという事件。しかもこの自殺したとされている男性は、未成年の少女専門の違法なデートクラブ ──小学生などの児童をメインとする売春行為── を経営していた。このデートクラブは高額な会員制のクラブとなっており、顧客には大物政治家、実業家、大手企業役員、医師、財閥の大立者(おおだてもの)、皇族に至るまで、著名な人物が多数いると疑われた。つまりこのデートクラブの顧客リストが公になると日本社会がひっくり返ってしまうほど甚大(じんだい)な影響を及ぼすと考えられた──


 もう一刻の余裕もない。ワタシと春子さんは当然、陽葵ちゃんを連れだして逃げなければならなかったが、顧客の正体を確かめることによって「ビック・ブラザー」との関係や「ビック・ブラザー」の存在そのものを確かめられるかもしれない。しかしながら当然、深く俯いたまま怯えはじめた小動物のような陽葵ちゃんを救出することが何よりも大事なことだ。


 ──陽葵ちゃん、お客様とは何時に約束しているの?


 春子さんが、深く俯いたままの陽葵ちゃんの頭を優しく撫でながら声をかけた。ようやく顔をあげた細面の美しい陽葵ちゃんは、春子さんを見つめながら可憐な声で応えてくれた。


 ──兄は、24時の約束だといっていました。


 大型スクリーンテレビのある壁の壁掛け時計は、午後23時30分を指していた。あと30分しかないしあと30分あった。


 ──陽葵ちゃん、もうお客様のことは考えなくてもいいから、今からお姉さんたちと一緒にこの部屋から出ていきましょう。今夜はお姉さんのマンションでゆっくり休みましょう!


 春子さんの言葉に、陽葵ちゃんは、一瞬、まさに向日葵のように表情が明るくなったが、すぐに首を横に振った。


 ──ダメなのよ! リビングから玄関へつながるドアはオートロックになっていて勝手に外へは出られないの。


 すぐに春子さんがリビングから玄関へつながるドアを確認した。たしかにドアのすぐ右側の壁に最新式の顔認証用のタブレットがはめ込まれてあった。このタブレットは顔を近づける必要もなく通過するだけで人の顔認証が可能なのだろう。つまり琢磨というツイストスパイラルパーマの若い男や浅黒い顔のジョーという若い男も、余分な動きをせずとも普通にこのドアから顔認証のうえ出入りしていたのだ。


 ──迂闊(うかつ)だったわ! これでは彼らが戻るまでこの部屋から出られない。


 春子さんは、苦渋の表情をその美しい顔に浮かべたが、すぐに新たな疑問を呈した。


 ──それなら顧客はどうやって出入りするのかしら? まさか顧客のひとりひとりが顔認証しているとは思えないし、セキュリティにも問題が生じてくるはず。陽葵ちゃんお客様はいつも1人で訪ねてくるの?


 すると、陽葵ちゃんはまた首を大きく横に振って否定した。


 ──お客様がくるときは、いつも兄が付き添って案内しています。


 ということは、今夜も琢磨というツイストスパイラルパーマの若い男が顧客を護衛しながら案内するはずだ。先ほど彼は朝まで戻らないといってこの部屋から出ていったが、それはワタシたちを安心させ油断させるための虚言だったのだろう。ここはタワーマンションの39階! もはや逃げ出すことは不可能に思われた。

 春子さんが、陽葵ちゃんに聞こえないようワタシの耳元で囁いた。


 ──顧客が陽葵ちゃんを目当てに来るのなら、おそらく琢磨とジョーは私たちに相手をさせるつもりでしょう。このマンションはエントランスから幾重ものオートロックシステムを通過しなければならないし、露巳(ロミ)代表に救出をお願いしてももはや時間が足りないわ。


 ワタシは立ちあがって、カーブを描いて10枚ほどの一面窓が並ぶ窓際から、ブラジルのセラードと呼ばれる草原地帯で夜になると光りだす蟻塚のような都心全体がビル群の明かりで覆われている夜景を眺めた。何十万、何百万もの人間が(ひしめ)く蟻塚のような得体のしれない大都会を……

 そしていつの間にかワタシは、夜景の中から自分とシーちゃんが一緒に住んでいるマンション方向を見つめていた。


 ──シーちゃん! もうお布団の中でぐっすりとおやすみしている時間ね。ワタシたちちょっとだけピンチになったみたいだけれど、シーちゃんはそのままゆっくりおやすみなさい。




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