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シーとピンク色のテロリスト  作者: ユッキー


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ピンク色のテロリスト



《プロローグ》



 地質学、地史学で地球の年代は、先カンブリア時代、古生代、中生代、ジュラ紀、白亜紀から人類が誕生した人新世(じんしんせい)へと移ってきた。

 人類が滅んだ後、あるいは数万年先を想像してみると、はるかな未来に知性を持った新しい生き物、もしくは宇宙から知的生命体がやってきて地球の地面を掘ったとき何が見つかるのか。

 恐竜の化石、三葉虫やアンモナイトの化石などよりも、やはりもっとも多いのは人類の痕跡のはず。アスファルトで覆われたたくさんの道路網や巨大なビル群などの大都市。土に還ることのない金属やプラスチック類や化学物質等々。

 地球は、未来の知性を持った新しい生き物や宇宙の知的生命体のためにも、もう少しだけ変わらなければならないのだ。

 だからこそ、ポニーテールにライトピンク色の大きな耳が垂れたブタの顔が真ん中にあるカチューシャをし、セレクトモカのピンクニットのディズニーコーデのワタシは、この地球のピンク色のテロリストになるのだ。






《SCENE1》



 真新しいビルの上質で解放感のあるエントランスホールに、暖色系の照明にやさしく照らされた背丈ほどの高さのクリスマスツリーが飾ってあった。白を基調としたライトやカラフルなガラスボールが宝石のように(きら)めいている。

 ベージュのバケットハットをかぶったワタシと同じサロンモデルで黒のベースボールキャップをかぶったマユは、思わず惹きつけられたようにTikTok用の動画を撮影した。クリスマスツリーの前で向かい合い両手を合わせて大きなハートのかたちをつくったり、撮影のため床に置いたiPhoneに向かって勢いよく走りより顔を近づけていろいろなポーズをとったり。もうおかしくなって大笑いをしたふたりの姿が、クリスマスツリーに飾ってある大きく透明なガラスボールに記念写真のように映っていた。


 ──ワタシはまだ22歳、当然オシャレをしたい年頃なのだから、いつもポニーテールにセレクトモカのピンクニットのディズニーコーデを着ているわけではないのだ──






《SCENE2》



 クリスマスのキラキラした空間、大好きだけどなんか切なくなるのなんでだろ?


 真新しいビルの野外ガーデンがクリスマス用のイルミネーションでライトアップされ、カラフルに煌めくクリスマスツリーを懐かしいポケットカメラで覗いてみた。切りとられた四角い空間が、ほんの一瞬、大都会の喧騒からスワイプし光彩陸離(こうさいりくり)の世界へと。

 白い光のじゅうたんのようなイルミネーションがならぶガーデンからは、白く大きなシャボン玉が紺碧色(こんぺきいろ)の夜空に噴きあがり、ワタシもなんだかクルクルと夜空に昇るつもりで自転してみた。

 部屋に帰ると、BAIESのディップティックキャンドルのあたたかな炎。ワタシは(またたき)をしてほおづえをつく。クリスマスソングを聴きながら……






《SCENE3》



 鈴木鈴木の『ホワイトキス』を聴きながら、マユと大通りに面したアンティークな雰囲気のカフェ ──2階の窓際の席── でコーヒーを飲む。暗めのベージュのボブにしたばかりのワタシは、デニムのパンツに黒のセーターの上に袖なしの赤茶色のダウン。マユは何度もMOMOEはボブがよく似合うと褒めてくれた。


 『ホワイトキス』のミュージック・ビデオを観たけれど、ホワイトのクリスマスツリーの前で、彼女がいつもしているPOLOのマフラーを彼の首に巻いて引きよせるようにしてキスをするのね ──まわりに見られないようにマフラーで隠しながら── 彼女の方が積極的な感じ。ハッハハハハ!


 と、マユはなぜか珍しく自嘲気味に笑った。



 それからワタシとマユは、オリエンタルな雰囲気の築地本願寺本堂前の立派なベンチに腰かけて、薄青い空の冬の日差しを感じてみた。まだそんなに寒くないが大都会からクリスマスの匂いがした。 ──それはけっしてイエスまたはイエスのような神聖な匂いではなかったが── するとマユは突然、自分が巻いていたチェックのマフラーをワタシの首に巻いてきてキスをするふりをした。

 

 そのときだった。ベンチの前の午後の日差しに反照(はんしょう)する舗道を、白にゴールドの体毛の小犬がベージュの髪のおとこの人と一緒に通り過ぎていった。一瞬、ワタシを見つめた小犬は丸くてつぶらなひとみをしていた。なぜかキャンドルの炎の瞬きのようにハッとなった。






《SCENE4》



 ふたたび、真新しいビルの上質で解放感のあるエントランスホールの、暖色系の照明にやさしく照らされた背丈ほどの高さのクリスマスツリーの前に来た。やはり白を基調としたライトやカラフルなガラスボールが宝石のように(きら)めいている。

 前回は、黒のベースボールキャップをかぶったマユと、惹きつけられたようにTikTok用の動画を撮影した。クリスマスツリーの前で向かい合い両手を合わせて大きなハートのかたちをつくったり、撮影のため床に置いたiPhoneに向かって勢いよく走りより顔を近づけていろいろなポーズをとったり。あのときは、とてもおかしくなって大笑いをしたふたりの姿が、クリスマスツリーに飾ってある大きく透明なガラスボールに映っていたが、今日はポニーテールにライトピンク色の大きな耳が垂れたブタの顔が真ん中にあるカチューシャをし、セレクトモカのピンクニットのディズニーコーデのワタシだけが映っている。


 マユは浮気をした彼氏と別れたらしい。サロンモデルの仕事をすべてキャンセルして、突然、大阪の実家に帰ってしまった。


 ピンク色のディズニーコーデのワタシは、この地球のテロリストにならなければならない。人類が滅んだ後あるいは数万年先、はるかな未来に知性を持った新しい生き物、もしくは宇宙から知的生命体がやってきて地球の地面を掘ったとき、恐竜の化石、三葉虫やアンモナイトの化石などよりも、たくさんの人類の痕跡が残されているだろう。アスファルトで覆われたたくさんの道路網や巨大なビル群などの大都市跡。そして土に還ることのない金属やプラスチック類や化学物質等々。

 地球は、未来の知性を持った新しい生き物や宇宙の知的生命体のためにも、もう少しだけ変わらなければならないのだが、マユがいなくなったワタシには、ピンク色のテロリストとしての闘争心が著しく()えていた。

 とても情けないテロリスト。


 そしてあらためて思った。ただのサロンモデルのワタシができることって? ワタシのテロリストとしての標的たる相手は誰?

 ──人類すべて? あるいは国の権力者? あるいは人間が創造した神? あるいはとてもつまらないが浮気をするような男ども?──






《SCENE5》



 ふたたび、マユと鈴木鈴木の『ホワイトキス』を聴きながらお茶をした大通りに面したアンティークな雰囲気のカフェ ──2階の窓際の席── に来た。しかし今日は、ポニーテールにライトピンク色の大きな耳が垂れたブタの顔が真ん中にあるカチューシャをし、セレクトモカのピンクニットのディズニーコーデのワタシの戦闘服だ。

 コーヒーを飲みながら、じっと築地本願寺本堂前のやや傾きはじめた陽に感光(かんこう)する白い画用紙のような舗道を眺めていた。なぜか先日見かけた白にゴールドの体毛の小犬にふたたび会ってみくなったのだ。あの丸くてつぶらなひとみに……

 ──この白い画用紙のような舗道が日ごろの散歩道ならまた必ず通るはずだと確信して──



 ようやく築地本願寺の本堂が、シルクロードを思わせる夕陽に褐色(かっしょく)に染まりはじめたころ、舗道をゆっくりと歩く白にゴールドの小犬の姿がほのかに見えてきた。ワタシは急いでカフェを出ると、前回と同じように立派なベンチに腰かけた。

 ──白とゴールドの体毛の小犬は、犬種をGoogleで調べたところシーズーだと判明していた──


 通行人の間を、小犬がベージュの髪のおとこの飼い主と一緒にややジグザグになりながらゆっくりと歩いてくる。夕陽を帯びた白にゴールドの体毛が、うぶ毛のように(きら)めいて美しい。

 ワタシがベンチからゆっくりと立ちあがると、子犬と飼い主も一緒に、ワタシの前で立ち止まってくれた。


 ──はじめまして!

 MOMOEといいます。かわいい小犬ね。

 シーズーですよね。お名前は?


 ──はい! シーといいます。

 

 ベージュの髪に左耳にTiffanyのサークルピアスをしたおとこは、急な問いかけにも驚くことなく微笑みながら応えてくれた。そして、おすわりをしたシーちゃんに、スカイブルーのショルダーバックからオヤツを取り出した。シーちゃんは勢いよく口にすると、ピンク色の舌をちょっとだけ出したまま、ワタシをその丸いつぶらなひとみでじっと見つめてくれた。

 ワタシにはそれだけで十分だった。やや涙声になった。


 ──ありがとうございます! シーちゃんまたね。






《エピローグ》



 翌朝、ワタシは新幹線のぞみに乗っていた。目的地は大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン。そこで待ち合わせをしたマユと会うために……

 もちろんワタシは、ポニーテールにライトピンク色の大きな耳が垂れたブタの顔が真ん中にあるカチューシャをし、セレクトモカのピンクニットのコーデに、今回は特別にPOLOのマフラーを巻いて…… でもこのコーデってディズニーランドよりもユニバーサル・スタジオ・ジャパンの方が合うかもしれない。マユも以前そんなこといっていたから。


 地球は、未来の知性を持った新しい生き物や宇宙の知的生命体のためにも、もう少しだけ変わらなければならない。だからこそワタシも、もっと仕事も頑張ってサロンモデルから飛躍しなければならない。この地球のピンク色のテロリストとして。

 いつも丸くつぶらな、くもりのないまなこのシーちゃんが、ピンク色の舌をちょっとだけ出したまま見守ってくれるのだから……





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