表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/50

0001プロローグ

【 プロローグ 】




 少女は馬に鞭打ちながら、月夜の草原を駆けていった。遠くで獣の遠吠えが立ち上り、その恐ろしさは彼女の意気をくじきそうになる。だが手綱を握り締める手はゆるむことなく、両目ははっきり前方をとらえて離さなかった。


「そんなものでこの私がまいりますかってーの」


 少女は舌なめずりした。昨日から何も食べていない。もし狼の集団にでも出くわしたら、こっちが食べてしまうんだから、と微笑した。もちろん冗談である。彼女を守るものはといえば、腰にぶら提げた短剣だけだ。野生動物にも盗賊にも、これでは可能な対策は逃走一本だけであろう。


「あーあ、これならお弁当持ってくれば良かった……。ま、私が『城を逃げ出すからパンと木の実と水筒を二日分用意してちょうだい』なんて頼めるわけもないしね」


 少女はうら寂しい気分を、独り言を友とすることで乗り切ろうとしていた。


 ひづめが草原を蹴り、土を巻き上げながら新たな着地点を粉砕する。いくえにも連なる丘が、小さな林と岩石でできた平野を見せたり隠したりした。その中を風を切り、少女の乗った馬が走り去る。


 あの頑丈で頼もしい従者は東の辺境伯領に飛ばされている。今彼女の身を本気で案じ、守ってくれるのは、彼以外にいない。多少の危険をおかしてでも、権力の腐敗臭ただよう宮廷から彼の元へと転がり込まねば、安心して夜も眠れないのだった。


「このまま彼氏も作らず結婚させられるなんて真っ平ごめんよ。せめて普通の恋愛をして普通に幸福になる権利ぐらい、私にだってあるはずなんだから」


 東から太陽が昇り始めた。黄金の輝きが万物を照らし上げ、とぐろを巻いていた闇を追い払う。陽光は長い影をそれぞれに従わせ、山の稜線にその本体を現そうとしていた。


 少女は愛馬を急停止させた。しばし太陽に見とれる。ほのかな暖かさが布地越しに肌を撫でてきた。道のりを振り返るが、追っ手の姿らしきものは見えない。彼女は馬のたてがみをさすった。


「もう少し頑張ったら休憩だからね。……あとひと踏ん張り、お願いね」


 再び鞭を当てる。馬は少女に不平も言わず、再び走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ