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幼馴染との初デート

 待ち合わせは駅前の大型書店の前だった。


 その場には昨日の妹と同じく男の人の視線を独り占めしている女の子がいた。

 腕時計を何度も確認して、時折口を尖らせ、どこかそわそわした動きを見せている。

 

 なんだか今日は遠目からでも普段より目立って見えて、小動物ぽさにどこか大人らしさが混じっているような雰囲気を俺に感じさせた。


 そんな花柄のワンピースを着た夏希に俺は近づいて行く。

 すると、抗議の意味で腕時計を前に突き出してきた。


「もう、あき君、遅刻だよ」

「なつき、ちゃんときていたな。いくぞ」


 至近距離に来ると、いつもとは違う雰囲気の理由が1つだけわかった。


 俺は夏希の手首を掴んで引っ張る。

 陽に教えてもらった極意を見せる時だ。


「ちょ、あっ、あき君、い、いたいよ」


 そういえば、昨日陽も痛そうな様子を見せていたっけ。

 どうもから回りしてか、力を入れすぎてしまっているようだ。少し力を抜いてあげる。


「これでいいだろ」

「うん……それで、あき君、どこに行くの?」

「いちいちうるさいぞ、なつき。だまってついてくればいいんだよ」

「っ!? は、はいっ!?」


 夏希は口元を震えさせ、少し潤んだ瞳で俺を見つめる。

 何かを噛みしめた後、次第にその表情はいつもの口元を緩めた人懐っこい笑顔を作り出す。


「な、なんだよ?」

「きょ、今日は呼び捨て、なんだね」

「っ!?」


 言われて気がついた。たしかに俺……いま、呼び捨てにした。

 陽に威張って、厳しくって極意を伝授されていたから、ちゃん付けではその辺壊すんじゃないかと、半ば無意識で。


 夏希の手首を引っ張り、ショッピングモールへと向かって進んで行く。

 信号が赤になったので立ち止まって夏希の方をみる。

 

「なんか、あき君がぐいぐい引っ張ってくれるのいいなあ」

「そ、そう?」

「なんか、あき君のお、女なんだって、わかる気がして……ご、ごめん。なんか変なこと言っちゃった。本能を大切にって言われて、思ったこと全部出ちゃったー」


 自分で口にした夏希は慌てふためき、恥ずかしさを隠せない。

 言われた俺の方はまさかの言葉にちょっと動揺を隠せない。


「いや、そういってくれてよかった……」


 だって、夏希を残念がらせてしまうかと不安だった。でも夏希はいつもよりも5割増しのその人懐っこい笑顔を作って俺を見てくれて、まずはちょっと安心した。




 ☆☆☆



 土曜日ということもあり、やはりモール内は混雑していた。

 駅からモールまでの道を歩いていても、車も人も昨日とは比べ物にならないほどだった。

 休みの日は特に家族連れが多くなる。


「あき、くん……どうしてペアシート席じゃなくて、個別席を取っちゃったのかな?」


 俺たちは2階の映画館に来ていた。

 すでにチケットも予行演習と同じふうに俺が購入した。

 この劇場にはペアシート席と言うのがある。簡単に言えばカップルシートか。


「夏希」


 少し恥ずかしいけど、もう一度呼び捨てで呼んでみる。


「は、はいっ!」

「今回はカップルシートじゃない。それでも俺と観ろ!」


 個別席を指定したのは陽だ。あいつが言うなら間違いない。


「ふぁ、い。絶対観る。あき君と観るよ」


 夏希は心底感動している様子で、目に涙を溜め俺の手を握りしめた。

 俺も周りを気にしてなくて、返事をする夏希の声も大きかった。

 だから、周囲の目は一斉にこちらへと向き、なんだこいつらとでもいうような目で見られてしまった。

 



 ☆☆☆




 ポップコーンと飲み物を買い、開場されたスクリーンへと移動する。

 館内は混雑していたが、俺たちが鑑賞しようとしている作品を観るお客さんはそれほど多くはないようだ。


「あき君、どんな映画を選んでくれたの?」

「ああ、それは……」


 スクリーンの前には上映される映画のポスターが張られている。

 夏希はそこで立ち止まり、ふぇ? と漏らしながら瞬きを繰り返す。


「学校の……こ、これって、ほ、ほ、ほっ、ホラーなんじゃ……?」

「う、うん……」

「……2時間、ど、どう、どうしよう……」


 あからさまに夏希が取り乱すのも無理はない。

 夏希は怖いのが凄く苦手だ。それは俺も知っていたし、もちろん陽もそれは知っている。


 夏希は観る前から怯えていて、まるで生まれたばかりの子猫みたいだ。

 これダメなんじゃ……

 いやいや、陽が言うなら間違いないはずだろ。


 俺は震えてしまって、少し腰が引けてしまっている夏希の手を強引に引っ張ってスクリーンに入って行った。

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