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家ではお兄ちゃんとすり寄ってくる妹への告白を目撃したら、小動物系の幼馴染が告白してきた件  作者: 滝藤秀一
鎌倉旅行

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17/26

傷心と感心

 俺たちは海岸付近にあるレストランの席に着く。


「うわー、いい眺めだな」

「ろ、ロマンチック、だね」


 それは絶景としか言葉が出てこない景色だった。

 七里ヶ浜海岸が視界を支配し、それだけで気持ちが高まり――

 先ほどの海岸での1件を思い出す。


 余韻がまだ残り、お互いドキドキしていている中で、この雰囲気は否が応でも夏希のことを意識してしまう。いや、意識しすぎてしまう。


「さ、さっきのありがとう。お、俺もその同じだからさ」

「わ、わかってる。あはは、なんかいつも抑えられなくて、びっくりさせちゃうね……」

「そんなこと気にしなくていい。ほんとは俺の方から」

「あ、あき君……」


 互いの視線が重なり、見つめあう形になるとそれだけでさらに、さらに鼓動が増した。


「うわ~、絶景ね!」

「陽!」

「陽ちゃん!」


 雰囲気をあえて壊すかのように、陽がテラス席へとやってきた。

 その顔はかなり満足気で、にこにこして席に着く。


 その表情を見るだけでちょっと安心する。

 この旅行の予定を考えるのに苦労して疲れているんじゃないか、なにか悩みでもあるんじゃないかと心配していたんだ。


「あんま、無理するなよ」

「そうだよ、陽ちゃん。わたしたち、陽ちゃんと一緒が楽しいんだから」


 夏希も俺と同じ気持ちだったらしい。


「な、な、なに言ってんのよ! 無理とかしてないし……たく、どうしてそんな――のよ」


 陽はべそをかいたようにメニューに視線を落とす。

 その顔はなんだかとても嬉しそうで――

 俺と夏希は自然と笑顔になった。



 ☆☆☆



 お昼のあとは長い坂道をゆっくりと登り、ホテルへと向かう。

 いつもと違う景色に俺たちはごく自然にまた手をつないだ。

 なんだか、いつも以上に意識してしまってお互い視線を合わせられない。


 夏希が頬を朱に染め、口元をだらしなく緩めているのがわかる。

 それは小さいころから俺が大好きな表情で――

 彼女をずっと見ていたい衝動にかられ、視線を向けようとしたとき――


 前方から、両手で涙を拭いながら歩いてくる女の子に遭遇した。

 どこかで目にした気がする。


 俺たちが手をつないでいるのを見て、女の子は立ち止まった。

 そして――


「そ、そんな仲良しは……幻想、妄想の、世界でした。う、うわーん」


 途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 大粒の涙が頬を伝い次々と地面に落ちる。

 さっき海岸で告白の練習をしていた女の子だとわかった。


 何も言葉を発することなく、陽が彼女を優しく抱きしめる。

 頑張った。とりあえず泣け!

 そんな様子で陽は女の子の頭をなでた。


 俺たちは彼女が落ち着くのをじっと待つ。


「すいません……泣かないつもりだったのに……悔しくて……涙で服を濡らしてしまって」

「気にしなくていいわ、すぐに乾くし。あなた運がいいわよ。この場にあたしがいた。この後時間ある?」

「は、はい。夏休みですから」

「話聞いてあげるから、一緒に来なさい」


 陽は返事を待たず、女の子の手をぐいぐい引っ張っていく。

 俺と夏希はそれを見て笑顔を浮かべ、その後ろをついていった。


「あなた、名前は?」

「松尾奈菜っていいます」


 彼女は涙をぬぐいながら答える。

 そして振り向き――


「どうやったら、お二人のように両想いになれるんですか?」


 と、訊いてきた。


「えっ?」

「ええっ?」


 顔を見合わせ見合わせる俺たちをよそに陽が口を開く。


「この2人は10年以上の付き合いでやっと告っただけよ。特別なだけ。恋ってのは、恋ってのはそんな甘っちょろいもんじゃな~い!」

「なるほどです……あの、お姉さん、手が痛いです」


「気づいてたんだな、お前……さすがだな」

「知ってたんだ、陽ちゃん……さすがだね」


 俺と夏希はまたもまたも妹に感心させられてしまう。



 俺と夏希にとって仰天する出来事が起きたのはこの少し後のことだった。

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