煙草
夜空に向かって吐き出す煙草の煙は、儚くも虚空に消えぼくを取り残す。
甘いの香りだけが指先に残り、忘れられない記憶を呼び起こす。
あれは冬の日、あいにくの曇天。真っ暗な公園のベンチでふたりどこかを見詰めてる。
オイルライターを擦る音。ぽっと照らされるキミの横顔。じりじりと燃える赤い灯火が指先で揺らめいてる。
いまにも雪が降りだしそうな空を見上げて、震える指先がいつもより細く思えた。水蒸気と煙を孕んだ吐息は風にのりキミと戯れる。なのにどうしてキミはあんな顔をしたのだろう?
幾星霜の時を過ごしても消えることのないこの記憶。
一瞬で燃え尽きる煙草のように、外気に溶けゆく紫煙のように、どうかぼくから彼女を消し去ってくれ。