一枚目『worker』 【7】
【7】
オーナーに、見透かされている気がしている。
二階から戻って来た彼女を見ていると、漫画では、周囲に音符が飛んでいるのが見える気がした。嬉しいような悔しいような、微妙な表情を夏美さんは浮かべ、ルカはどこか楽しそうな表情を浮かべている。総合すると、写真を展示する方向で話がまとまってしまっているという事を察してしまう。
「嬉しそうですね」
「うん、展示が決まるとわくわくするから。あ、そうそう…」
「夏美さん、展示をHPに掲載する関連の事で、どの作品を掲載させるのか今度の休日に決めたいので、連絡をください。詳細については、オーナーから話されていると思うので、そんな感じです。また、はっきりしてきた時に、メールで伝えるので展示期間
終了まで保存してください」
「分かりました」
「夏美さんの作品、楽しみにしています」
「今までも見ているでしょ」
苦笑を浮かべ、夏美さんがそう言う。
「展示作品になった物は、また、別物だからね」
オーナーは自分で珈琲を淹れながら、そう答えている。
「そうだよな。電子より触れる物の方が、確かな存在感があるし」
「それは、分かるけど」
もぐもぐしてしまっている夏美さんを見ながら、どうして、作家さんの中には人に見てもらうという事に壁を感じてしまっている人がいるのだろうかと感じた。
作品を生みだしている事に、もっと自信を持っていいはずだ。
最初から上手い人は、そうそういない。最初は未熟で不器用で上手くできない自分に、悔しさ、苛立ち、嫉妬と自分の中にある汚い感情を抱きながら、試行錯誤を繰り返し、向上心で上手くなる方法を模索するものなのだと聞いた事がある。
私自身は、何も作品を作らないので、自分の手で何かを生み出す事ができるは、誰にでもできる事ではないと実感している。
「写真ですか、いいですね♪ 楽しみです」
「ありがとうございます」
作家さんに満面の笑顔を浮かべられ、逃げ場がなくなってしまった夏美さんは台所に飲み物を淹れに向かった。
「人生長いからな。手が回る範囲で、他の才能を伸ばしても面白いだろ?」
飄々とした口調でルカは言う。
もともと夏美さんは、歌の才能を伸ばし、現在は人に教えていた事もあったという。 だが、自分が躓いた時の事を思い出し、言葉にして伝えて教える事はルカの方が上手いと言っていた。
人に教えるという事は、自分の作品作りが上手いだけではダメなのだと、テレビで有名なトレーナーが言っていたのを聞いた事がある。まず、自分が覚える事はとても大切だ。だが、自分が覚える事は、教えるよりも簡単だ。
教える相手が自分よりも実力があったら、その人にはたった一言の助言だけで、きっかけを少し与えるだけで、驚くような成長をとげる事がある。そのきっかけを与える事が、のほほんとしているようでいて、的確だと素直に感じる。だけど、真実をつきつけられる事は、時として小さな苛立ちを感じさせる。
「仕事も同じだと思うぞ」
「多才な人に言われると、説得力がありそうなのに、なぜだろう…ルカが言うとかすかな苛立ちがちくっと」
「ん、気持ち分かる。間違ってないのにね」
「そうですよね」
オーナーに視線を向けると、『2人とも、若いのは、いいね』という表情を浮かべ、珈琲を飲む。




