四枚目 『where a bouts』 【3】
【3】
気づいたら、この場所に来ていた。
安心できる空間が、ここにはある。そのまま受け止めてくれるような雰囲気があるのは、オーナーである華の人柄が現れていると思う。
コップを洗って片づけて戻ると、春はじーっと私を見ている。
「オーナーと優香さんって、仲が良いですよね。何時からの付き合いですか?」
「数年前の、ここのギャラリーが始める前からの付き合いだよね」
「そうだね、あの頃は私も二十代…若かった」
華は、ふっと遠い目をしている。
「先に声をかけたのは、優香さんですか?」
「なぜ?」
「華が声をかけるような性格には、思えないし…なんとなく…」
そうであってほしい口調で言われ、その様子が可愛いなと笑みを浮かべる。気にしてはいるから、さりげなく聞き出そうとしているのだろうなと思う。
「うん、私から声をかけた」
そう答えると、少し安心したような表情を春は浮かべた。いい人が見つかってよかったねと微笑ましい気持ちになる。華から聞いていたように、すぐには分からないような、伝わりないけど、じっくり付き合ってみると、優しさとしっかりしている強さもあるけど、こういう少女のような可愛らしさを持っている女性のようだ。
「ギャラリーを始めた理由、知っている?」
「……詳しくは聞いた事がないです。屋内で発表する場所をなるべく価格をおさえ、そして、都内でなくても、もっと身近に美術を感じられる場所にしたいのと、親戚から遺産として相続した空き家を有効に使いたい、という事しか聞いていません」
華は少しぬるくなってしまった珈琲を飲みながら、苦笑を浮かべる。
「うん、それもあるけど…前にも話したかもしれないけど、みんなの居場所になれたらいいかなぁと思って。少し集まって話せるような。ただ、私も生活がかかっているから、無料ってわけにはいかなくて、このギャラリーを維持できるだけの最低限の価格をもらっているけど」
「そのために、資金貯めるのも、迷いをふっきるまでが大変だったみたい。それまでは、仕事と家の往復、休日は家事につぶれる生活をしていたから、弱っていったよね」
「あの頃、よく心配されたね。隙間時間の息抜きを休憩時間にするようになってからは気持ちが楽になった」
「休憩時間は、自分の時間だからね。今もパソコンで在宅ワークを続けているの?」
「足りない分は続けている。教えてもらえてよかったよ。軌道にのってコツを掴むまでが大変だけど、その方が私にはあっていたみたい。とは言っても、小遣い稼ぎぐらいだけど」
冷たい視線を感じて春を見ると、面白くなさそうな表情を浮かべているのに、華が視線を向けるとすぐにその表情をひっこめる。
この子は、犬というより、例えるのなら猫かもしれない。
ふとそんな事を感じると、春の頭の上に猫耳が見えた気がした。
「それで、次の展示する人は決まっているの?」
「決まっているよ。次の展示は、ルカの紹介の油絵の人が、来週の月曜日から2週間で絵の展示。その次も、その油絵の人の知り合いだっけ?」
スマートフォンのスケジュール帳を確認しながら、春が答えた。
「はい、その人の知り合いだそうです。あの人の知り合い、作家の集まりですね」
「似たもの同士が集まるっていうからね。そういえば、優香の知っている人でお菓子作りが趣味の子っている?」
「いるけど…どうして?」
「お菓子までは出してなかったから、今度の展示の時にお菓子を頼めないかと思って。ダメ、かな?」
「ダメじゃないと思うけど…」
「それじゃ、今度会う時にでも頼んでみて」
「……分かった」
「よろしくね」
それまでに、私は仲直りできるだろうか。




