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四枚目 『where a bouts』 【2】


 【2】


 その事を春に言えないだろうなと思った。

 逆の立場なら、聞きたくない。


 「……」

 春は、自分の思いつく限りの事を考えながら、食材を整理している。

 いくら察しのいい性格だったとしても、言わない限りは正解は出せないだろう。

 何か話題をと思い、珈琲を飲みながら、そういえばと春に視線を向けた。

 「華が絵を描くのって知っている?」

 「知らないです。…陶芸じゃありませんでしたっけ?」

 春の声のトーンが少し低くなる。整理した食材をギャラリーの冷蔵庫にしまい終わると、春は自分用の珈琲を淹れて戻って来た。

 「陶芸は、人に習った事があって続けていたけど、絵は、落書きぐらい」

 「その人物画がすごく綺麗だったから、今度描いてもらうといいよ」

 「『見せてもらう』のではなくて、描いてもらうのですか?」

 過去に描いてもらった絵を思い出しながら言ってから、しまったと思った。この子は察する事が得意だというのを忘れていた。言葉の外に、『何か言いにくい事でも?』と言っているのは、きっと、気のせいではない。

 「過去に描いた絵はあまり見せたくない時もあるから」

 人物を描く時のデッサンの時にバランスをとる練習のために、身体のラインを描く事がある。デッサンの練習用に描いたのが出来がよかったので、着色してみた絵を見せてもらった事がある。モデルが自分で描かれたものとは思えないほど、実物よりも色に透明感があり、綺麗に描かれていた絵だが、あれを見せたくはない。

 「その時にしか描けないものだけど、後から見ると手を加えたいところがたくさんあるから」

 「そうですか…それなら、仕方ないです。今度、描いてください」

 「え? あぁ、うん、今度ね」

 「楽しみにしています。…そうだ、2人で展示してみたらどうですか?」

 春のその提案に、私たちは視線を見合わせた。珈琲を飲みながら、頭の中で出せそうなものを探してみても手元にあるのは、数が少ない。頼まれた物や売れた物を補充するぐらいの量でたくさんは作れていない。

 「んー…今すぐは無理だけど、日程があえば」

 「私も新しく描くとなると、今すぐは無理だけど数ヶ月後なら」

 「そうだよね。あれ? そういえば、この場所で展示するのって、華も初めてじゃない?」

 「言われてみれば、そうだね」

 「一番に見るのは、私ですけど」

 得意そうに言いながら、春は私にニヤリとした視線を向けてくる。

 よかったねという表情を浮かべて、残りの珈琲を飲み干した。一番に見るから特別だとこだわれるところが若いなと感じてしまう。春よりは少しは長く生きていると、結果、最後にどれだけ心に特別な存在でいられるのかが大切になってくる。

 順番が気にならないわけではないけれども。

 「そうだね」

 嬉しそうな表情を浮かべている華を見て、よかったと思う。

 ギャラリーを開く前に比べて、今の方が生き生きとして見える。

 「日程とかは、また今度メールで決めようか。秋だと予定がつきやすいから、その頃のどこかで」

 「私もその頃の方があわせやすいから」

 「では、そのあたりで」

 飲み終わったコップを片づけるために奥に向かった。


 誰も借りてくれなかった期間+この家の改装費等の準備資金、運営、HP作り、そのすべてが手探り で、うまくいく保証なんてまるでなくて、今は比較的上手くいっているとはいえ、赤字にならないぎりぎりの中で営業しているのも知っている。


 それでも、好きな事を仕事にしている華が羨ましく感じる。仕事をするのなら、できる仕事の中でもなるべく好きな分野で仕事をしたい。そして、将来の事を考えると、収入面を増やさないといけない現実がある。


 その事について、最近私は、幸来と喧嘩してしまっていた。


いつもお読みくださりありがとうございます。

五月中には、四枚目『where a bouts』を書き上げる予定でいますが、

更新は、ゆっくりになります。


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