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三枚目 『Ravishing hart』 【8】

 

【8】


 ルカに見せる写真を撮る時、どういうものにしようか迷った。

 

 ただ一つ決まっていた事は、気持ちを伝えるようなものにするとテーマだけだった。テーマはさくっと決める事ができたのに、具体的に何をどうやって撮るのかは、ギリギリまで決まらなかった。

 携帯で画像を検索して、写真の中で参考になりそうなものを見ているだけで、時間があっという間に経過してしまう。構想を考える時間は、頭は働いているのに、他の人から見れば、ただ、ぼーっとしているように見えるみたいだ。

 学校の休憩時間に、友人達に目の前で手をふられる事が何回かあった。

 そして、撮れた写真は、我ながらいい出来だと思えるものだった。


 「お帰りなさいませ、お嬢様」

 いつものように執事喫茶に行くと、ルカがいつものように出迎えてくれた。案内された席に着く途中、視線で探しても夏美さんの姿は見あたらない。 

 「休日なので・・・後から呼びます」

 「そうなんだ。って、休日?」

 仕草でルカは席に座りやすいように、椅子を手前にひく。いつもの席に座りながら、僕は、休日という言葉にひっかかりを覚えた。

 「そういえば、言っていませんでしたね。夏美も、ここで働いています。お嬢様が来店する日は、休日なので会う事もありませんでした」

 「そうなんだ」

 ということは、別の日に来れば夏美さんと会う事もできたらしい。

 「飲み物は?」

 「今日は、焼き菓子セット、ブレンド珈琲で」

 「かしこまりました」

 一度、奥にルカが向かう。

 夕方になり閉店まで数時間、他の客は来店していない。昼間の時間の方が比較的賑やかだと聞いた事がある。静かな店内は気持ちを落ち着かせてくれた。

 「お待たせ致しました」

 テーブルの上に、先日、試作品でもらった焼き菓子がのせてあるお皿が置いた。

 「あ、これって」

 「この前の試作品、出せる事になりました」

 「よかった。これで、食べたい時に食べられる」

 珈琲カップを焼き菓子の隣に音を最小限におさえて置かれた。

 お菓子を食べてみても、珈琲を飲んでみても、やっぱり美味しい。

 「……それで、写真の感想だけど」

 「うん」

 「数枚入っていた写真、すべて雰囲気が違って、その全部が綺麗だった。特に、人の写真が綺麗だと思う」

 「あれ、一番よく撮れたと思っていたから、嬉しい」

 「……気のせいならいいが、俺には恋人が居るから、付き合う事はできない」

 

 ここに来る前に覚悟していたはずだった。

 実際に言われるのは、思っていたよりも、胸をしめつけてくる。

 

 「知っていたから」

 ふられる言葉を言われるのも、覚悟していた。

 珈琲を一口飲む。

 珈琲と言えば、苦味があって苦手だという人もいるけれど、雑味のない珈琲を飲んでみてからその言葉を言ってほしいと思う。ミルクや砂糖をいれなくても、嫌気がするほどの苦味は感じないほど、美味しい。

 ただ、僕が珈琲好きだから、そう感じるのかもしれないけど。

 「言わないって思っていたけど、ふられる方が僕らしい失恋の仕方だと思って。すぐには気持ちを切り替える事はできないと思うけど…ルカは諦める」 

 「そうか」

 「それで…あの写真、少しはドキッとした?」

 そう質問すると、ルカは分かりやすいほどに視線をそらした。

 思い出したのか、頬が少し赤くなっている。

 「してくれたのね。なら、撮ってよかった」

 焼き菓子を食べながら、満足して笑みを浮かべる。

 これで、写真に対して何も感じてくれてなかったら、それこそ今日の僕のへこみ具合は悪化していた。

 「夏美さんには、言わないでおいてあげる」

 意地の悪な笑みを浮かべれば、何も言えなくなってしまっているルカと視線があう。

 いい人には、恋人が居る確率が高いから、居るかどうかたしかめた方がいいという知識を持っていても、その前に好きになってしまう事もある。


 いいなと感じられる人には、それだけ人としての内面の魅力があるのだと思う。   


 お店のドアを開ける音がして視線を向けると、夏美さんとオーナーが入ってくるところだった。夏美さんが待ち合わせだと言っているのを話して、別の執事は隣の席に案内した。


 「こんばんは、2人は偶然そこで会って」

 夏美さんはそう言いながら、紅茶を注文する。

 「今日は何もなくて、時々、散歩がてら珈琲を飲みに来ている」

 オーナーはそう言いながら珈琲と珈琲豆を注文する。豆は100グラムと500グラムの中から選ぶ事ができ、100グラムを注文していた。

 「お土産ですか?」

 「うん、そう。ここの珈琲は、美味しいって言っているから」

 ほのぼのしながら言っている表情は、とても幸せそうだ。現実を忘れて、こっちまでほのぼのしてくる気がする。

 注文を受けた執事は奥に向かう。

 ルカは、珈琲豆をパック詰めする作業をしている。

 「写真、見せてもらってもいい?」

 「ちょっと待ってください」

 バックの中から写真の入っているファイルを取り出す。持ち歩きに便利なサイズで枚数もそこまでいれていない。あの写真以外はいれてある。

 「…綺麗、ですね」

 「ありがとうございます」

 「こういう写真、撮るんだね」

 「そういえば、オーナーに写真を見せるのは初めてでしたね」

 「いつも、見せてくれなかったから。写真は、形をある程度変える事なく撮るものだけど、撮る人の心も写すものだよね。だから、綺麗な写真を撮るさやかは、綺麗なんだよ」

 「オーナー、それ、口説いているみたいに聞こえます」

 ルカはそう言いながら、珈琲豆をオーナーに渡した。

 「だって、本当の事だから」

 そう言いきったオーナーを見て、僕は思わずオーナーらしくて笑ってしまう。こういう人だから、あの子も好きになっていったのかもしれない。2人ともお似合いだとギャラリーに行く度に思う。

 戻って来た執事は、紅茶と珈琲をいた。

 

 いいなと感じる人の内面が魅力的だから、相手が居る確率が高いのかもしれない。 


 「ありがとうございます」


 学校を卒業した後も写真を続けていくのなら、思わずひきつけてしまうほどの人の魅力を写真で撮る事のできるカメラマンになりたいと感じた。



いつもお読みくださりありがとうございます。

三枚目『Ravishing hart』を書き終わりました。

さやかさん視点なので、華と春の二人があまり出てきていませんが、

どうやら、あの後、付き合っているようですよ。


次回、四枚目の更新は、5月22日以降を予定しています。


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