三枚目 『Ravishing hart』 【6】
【6】
「…分かった。後で見る。俺の写真も奥に持って来ているから、少しここで待っていて」
何が入っているのだろうか、不思議そうな表情を浮かべルカは受け取ると奥に向かった。
「オーナーこちらをお願いします」
視線を向けると、あの子が数人に対応しているところだった。
「今、行く。じゃあ、私もこのへんで」
オーナーが奥に向かったところで、友人が戸惑いがちに話しかけてきた。
「ねぇ、さやか…本当にあの封筒の中身って、この前見せてもらったあの写真なの?」
「うん、あの写真なら、分かりやすいでしょ?」
「いや、だから…むしろ、分かりやすぎて見たら…」
奥から何やら思わず出してしまった困惑した声が聞こえてきた気がして、意地の悪い笑みを浮かべる。
「失恋するのが決定事項だから、爪痕ぐらい残してもいいかと思って」
僕の友人2人は珈琲を飲む。
「……さやかの将来が心配になってきた」
「そう? 私は、そういうところ好きだけど」
一人は母親のような口調でいい、一人は面白そうな口調で言う。
「そういう事を言ったら、さやかはそのままでいいって思うからダメ」
「んー…いいでない? 決めるのはあっちだから」
「たしかに、決めるのはあっちだけど…」
言い淀んでいるところで、ルカがこっちに戻って来た。心なしかルカの頬が赤く染まっている気がする。写真が入っているクリアファイルを片手に持ちながら、逆の手で珈琲の入っている紙コップを持っている。
動揺は、してもらえたらしい。
「…この前、約束していたのを持って来たけど」
「見ます」
「じゃあ、私たちはまだ作品見てないので、見てきますね」
友人達はギャラリー中を順番に作品を見ながら進んで行った。
受け取ったクリアファイルに入っている写真は、あの人の人物写真が多かった。植物や空を映している写真は、今回のファイルの中には少なかった。
「綺麗、ですね」
ルカの写真も分かりやすく感情が写りこむ、素直な作品を撮るタイプだ。
「ありがとう」
「技術的な事は、僕からは言えないけど…いい写真だと思います。構図もいいし、明るさも丁度いい。何より、動きがそこまであるわけではなくても、そよ風で少しの動きがあるだけでも、人物写真で見ている側に伝わってくる感情が綺麗に撮れている」
こういう写真をルカに撮られてみたい。
けれど、それは、無理だ。
ファイルを返し、何か言おうとしたルカよりも、早く声に出す。
「心から愛していますよね…この人の事を」
珈琲を一口飲むと、苦みがましてしまった気がする。
「この前知って、まさかと思いました。僕の写真の感想は、また、今度聞かせてください」
「……」
「また、喫茶店に行ってもいいですか? あのお店の雰囲気も僕にとって癒しなので。それで、また今度、写真を撮らせてください。人物写真、苦手なので練習に付き合ってください」
「……また、今度な。お嬢様のお帰りをお待ちしております」
困ったような表情を浮かべて、ルカはそう言った。
また、今度会う時、その時、僕は確実にふられる。
「はい」
私の写真の感想は聞いていない。
けれど、ちゃんと感想は言ってくれるのだと思う。




