三枚目 『Ravishing hart』 【4】
【4】
結果として、ギャラリーの最終日に一人で向かう事にならなくてよかったと思う。
学校から帰宅後、一通りの事をすませて自分の部屋に来ると、バックを床に置き、そのままベッドに飛び込む。顔だけ動かして、ベッドの脇にあるコンパクトな木製の勉強机に置いてあるカレンダーに視線を向けた。
星印を描いてあるギャラリーの最終日まで、まだ数日の時間がある。
机の壁には、100円均一で買ったフォトフレームに、小遣いの中から買った雑誌のNatumiの切り抜きを入れてある。その他の切り抜きはクリアファイルに整理していれている。
バッグの中から焼き菓子を取り出し、一口食べる。
「やっぱり、美味しい」
基本となるレシピは同じなのに、アレンジされているにしても、ここまで違いが出ているのはどうしてなのだろう。何度食べてみても分からない。
分からないのは、今の自分の気持ちも同じだ。
ルカの事は、恋愛の好きだと感じている。その手で、触れて欲しい。感情をさらけ出すならば、僕の存在を刻みつけてしまいたい。そんな強気な欲が出てきてしまう。
そして、憧れていた歌手がその恋人という現実を頭は理解しても、心はついてきていない。いっそ、相手が見ず知らずの人で、嫌いになれていたなら、同じ失恋するにしても、今よりは苦しくはならないはずだ。
「なんで、好きになったのだろう」
号泣したくはないのに、泣くたくなる。
初めて執事喫茶に行ったのは、好奇心からだ。
最近できたという執事喫茶、行くのには少し遠いので行くのをやめていたが、近くにできたという事で学校帰りに行った時に出会った。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
出迎えてくれたのは、執事の服装をしたルカだった。
眼鏡をかけて、しっかり者なクール、話かけにくい雰囲気だった。
実はそうではない事は、写真も好きだという雑談をしているうちにすぐに分かった。
自分の作ったお菓子が誉められた時に見せる笑顔が可愛い事も知った。ギャップに心を捕まれてしまうのは、こういう事かと感じたのを覚えている。
悩みを話すと、何時でも誠実に受け止めてくれた。
受け止めてくれたから、どんな過去を過ごしてきたのか、気になった。
どんな過去が、この人を作ったのかと知りたい欲求が強くなる。
もっと、この人の知らない部分を知りたいと思ってしまった。
週に一度、喫茶店を訪れる事が楽しみになった。いつもの同じ曜日、同じ時間、ゆったり過ごす事のできる空間は、生活の一部になっていた。客として訪れている間は、僕の執事で居てくれる。
もう恋人が居る事は、言動から読みとることができた後でも、気持ちは弱くなるどころか、強くなってしまっていた。
ルカに、恋をしてしまっていた。
恋は作品を創作する中で、大きな原動力になり得るが、失恋に向かっている場合は扱いが難しいらしい。だけど、僕は、より作品をよくするために使いたいと思ってしまうあたりが、創作バカなのだろう。
ならば、やる事は一つだ。
だるい身体をベッドから起きあがらせて、机に向かう。机の本棚に入れてある写真関連の本を開く、もう習ったところも、もう一度さらうように読みながら、数冊しかない好きな写真家の写真集を見る。
ギャラリー最終日までの数日。
その数日の間に、僕はいい作品を撮って、ルカに見せよう。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回の更新は、4月24日頃を予定しています。




