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三枚目 『Ravishing hart』 【3】


【3】


 僕自身の困った性格は、負けず嫌いな性格だという事だ。


 「何か荒れていますね」

 じーっと声の主を見上げる。

 あの後、執事喫茶に来ていた僕は、ルカの苦笑を浮かべているのを見ながら、やっぱり好きなのだと自覚する。

 優しく響く低めの声も、嘘のない纏う雰囲気も、後ろ姿でさえ遠くからでも見つけられると根拠のない自信があったのに。今日は、その自信も打ち砕かれてしまった。

 外はもう暗くなっていて、窓を見れば自分の姿が映っていて、少し泣きそうな困った笑みを浮かべている。  

 「気のせいです」

 「……こちらをどうぞ。内緒ですよ」

 悪戯ッ子のような笑みを浮かべ、小さなチャック指揮のビニール袋に入っている焼き菓子を僕に渡してくれる。いつも必ず頼むセットメニューには、日替わりの焼き菓子がついてくる。焼き菓子が好きだった事を覚えてくれているようだった。

 「試作品です。感想は、また後日に」

 「ありがとう」

 その優しさに、また、泣きそうになる。

 どうしてこの人は、他の人と歩く事が決まってしまっているのだろうか。

 もう恋人が決まっているからといって、簡単には割り切る事のできない黒い感情がある事に対して、嫌われたくないという感情とで板挟みになっているから、なおさら感情は不安定になる。 

 僕が人を好きになると、簡単には割り切れなくなる事が分かっていた。相手が居たとしても、負けず嫌いな性格が災いしてしまう事も、生まれてからの自分との付き合いで分かっていたから、相手が居る人は好きにはならないと決めていた。

 「ギャラリーで写真、見ましたよ。素直に良いと感じたし、特に人物の写真が、良い表情を撮れていて」

 自分が誉められているかのように笑みを浮かべているのを見て、こういう人だから好きになったのだと思う。

 

 だから、告白はしないと決めていた。

 告白をしてしまったら、即ふられる事は想像できる。

 可能性がない相手に対して曖昧で気をもたせるような返事を、この人は絶対にしないと確信をもって言えるから。

 もし、気持ちを伝えるような事があるならば、それは、ただ気持ちを伝えるだけになるだろうという予感がしていた。


 「写真の勉強している方に言ってもらえて、嬉しいです」

 「……今度、ルカの写真を見せてもらえませんか? ギャラリーでの展示の最終日に見に行く予定なので、その時にでも」

 「いいですよ。数点ファイルに入れて持って行きます」

 「私の写真も持って行きますね」

 「楽しみにしています」

 僕は、残っていた紅茶を飲み干す。

 我ながらスマートで、自然な流れで誘う事ができた。こういう機会でもない限り、自然に誘う事はできないだろうなと思う。

 ふと優しい笑みを浮かべて、ルカはおかわりの紅茶を淹れてくれた。 


 翌日。

 「美味しい」

 「さやか、あんた、本当に食べ物を美味しそうに食べるよね」

 「本当、見ているこっちがよかったねと言いたくなる。よしよし」

 専門学校でのお昼前の小休憩時間に、もらった試作の焼き菓子を一口食べただけで思わず言葉がこぼれだした。それを見た友人達は、子供を見るような目で見てくる。

 「いや、本当に美味しいから」

 ビニール袋を友人達の前に出すと、頭を使っていた女性陣は迷わず甘い焼き菓子に手を伸ばす。口の中に入れた瞬間に、言わないだけで目がキラキラと輝き出した。目が口ほどに物を言うというのは、こういう事かもしれない。

 「はい、紅茶」

 タンブラーで持参していた飲み物も、紙コップにいれて渡す。 

 「これ作った人、プロ?…って、紅茶もいつものと違う」

 「茶葉を買って、淹れてみた」

 いつもは市販のすでに淹れてあるものをタンブラーに入れるだけ(それでも少しは安くなるので)というものぐさをしているけど、今回は自分で淹れたというのもあって、プロほどではなくても美味しさが違う気がする。

 「お店で出す試作品だって、どうよ?」

 「さやかがドヤ顔してどうする」

 紅茶を飲みながら、美味しそうな表情をするのを見て嬉しくなった。こういう気持ちなのかもしれない。他人の事なのに、誉められると嬉しくなる感情というのは。

 「でも、うん、美味しい。今まで食べた中で上位にランクインする」

 「今度、伝えてみる♪」

 バックの中に、残った焼き菓子とタンブラーをしまう。

 「ねぇ」

 「ん?」

 「この人ってさ、さやかの好きな人だよね。パティシエなんだ」

 「あ、固まった。さすが、さやか、分かりやすいね。純粋で、羨ましい」

 友人達には好きな人が居る事は誤魔化してきたはずだ。ぎこちなく振り向くと、『気づかない方がおかしいだろう』という表情の2人と視線が合った。

 「どうりで、最近の作品がいい意味で変化があったわけだ」

 「一回、見てみたいな。友人だし?」

 「うん、見てみたいな」

 なぜだろう、この拒否権のない口調だと感じしまうのは。

 だけど、短大卒業後から、専門学校に入学した僕に、親身になって教えてくれたこの2人に対して、断れるわけもなく…。

 「今度、ギャラリーの最終日に居るから、その時に」

 と、3人で最終日に向かう事になってしまった。


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