二枚目 『a fragile article』 【5】
【5】
「……」
私は、おかわりで淹れた紅茶を飲もうとしたまま、数秒間は固まった。
その間に、ノベルゲームのように、選択肢が三つぐらいは出てきた。
そのうち、後半二つは強気に出てみるというのが、かすめていくも、
『それができているのなら、とっくに今の関係は変わっている。いつもは、反射で反応を返していたな。そろそろ、何か返しをしないと沈黙が肯定になっていますが』
なんて、冷静な自分がつっこみをいれてくれた。なので、一番、おかしくはないと思われる事を返す。
「…そうね、好感を抱いたから、仕事を誘ったから…好きね」
「そうですか」
春は、少し残念そうな、微妙な表情を浮かべて、視線をそらした。
「私は、オーナーの事好きですよ」
視線を春に向けると、春は、思いきり、意地の悪い笑みを浮かべている。
「オーナーの犬っぽくて、分かりやすい性格が」
今度は私が、残念そうな表情を浮かべる番になってしまった。
なぜか、満足している春の余裕が、なくなってしまえばいいのにと思っている自分に気がついた。
翌日。
夏美さんのダイレクトメールのデザインも、HPに掲載するデザインについてもメールで送付していると、2人の住む場所から散歩できる範囲の距離なので、直接見て話したいという事になったので、自宅で会う事になった。
夏美さんと、春は2人でお菓子の買い出しにいくというので、その日だけ、私は春に合い鍵を渡した事を後悔する事になる。
私は、年の近いルカに話を聞いてもらっていた。
珈琲を飲み干すと、ため息を吐き出す。
「……もう、それ、明確に春が好きだと答えでているよな?それも、俺も知らなかったけど、以前から」
「やっぱり?」
「そこまで、行動しておいて、今更だと思うが。…まさか、自覚がなかったなんて事が……あぁ、あったのか、つい最近まで」
「私、何も言ってない」
「表情が、言っていた」
当たり前の事を質問してくるのを、不思議そうな表情でルカは答える。早とちりも多いが、こういう時だけ、表情を読む的中率があがるのは、なぜだろう。
「それも、春も華の事が好きだよな」
「…え? 意地悪な事を言われるのが多いのに」
ルカはどこか遠くを見る目をする。窓の外は、肌寒さが残っているが、とても暖かい日差しがでているが、窓の外の風景を見ているというわけでもない。
「少しななめにそれた、好きな子をからかう小学生男子のような表現っぽいよなぁ」
「……つまり、それは、ルカのような」
ルカは、言われたくない事を言われた表情を浮かべ、珈琲を一口飲んでいる。
「俺の他にも居るのか、そういう子」
「人の性格だからね、そういう子も居るよ」
学生を卒業している年齢で、「子」扱いするのもどうかと思うけれど、年齢差があると、どうしても「子」扱いになってしまっている。自分自身も精神年齢が幼いと自覚はしているから、おかしな話だ。
「だから、だろうな。最後の『私の事、好きですか?』なんて、核心を持っているけど、決定的な言葉をひきだすために、逃げ道のないストレートな質問をしてきている気がする」
「困らせるような質問にしか思えなかったけど?」
「曖昧に誤魔化す事のできない質問の仕方で、逃げ道がなく、華の性格だったら言ってくれると思った。だけど、明確な言葉をくれなかったら、揺さぶりをかけた。自分の本当の気持ちを言い、なおかつ恋愛感情だと断定できずに、困らせられるような言葉の選択で」
ビニール袋が食卓に置かれ、こすれる音が聞こえた気がした。
「そこまで、頭の回転がいいの? 羨ましい、いい方向に使ったらいいのに」
「感想は、そこか」
ルカは苦笑を浮かべる。
「たぶん、そこまでを言う必要がないから言わないだけで、ほぼ時間かけずにそのぐらい考えている時もあるぞ。全部の会話ではなく、大切だと思った会話はすべて」
「大切な会話だと思われたって事だよね。それは、嬉しいかも。それに、可愛いよね、そういうところ。好きだな」
「「可愛い?」」
心底驚いたルカと春の声がほぼ同時に重なり、振り返ると買い物から戻って来ていた春と夏美さんと目があった。
作業に集中していると、気づけない事もあるので、買い出しが終わったら合い鍵で、入って来てかまわないと言っていたのを、この時の私は、すっかり忘れていた。




