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ベルシュタットへの殺意

 ベルシュタット大佐がたったの一部隊で敵軍の一個師団に挑もうとしたのには理由がある。


 先月、ベルシュタットの同期が准将へ昇進したのだ。

 その同期は士官学校時代、ベルシュタットよりも席次がひとつ下だった。

 下位だったものに追い抜かれたのがよほど悔しかったのだろう。

 戦場で華やかな武勲を立てたくて仕方ないようだ。

 それに軍議において同僚と言い争いになったことも起因しているようだ。

 その同僚は一個師団の北上は想定しておらず、この兵力ではどうにもならない。

 ここは守戦に回り、本体への援軍をこうべきだ、と常識的に主張した。

 しかし、その常識論もベルシュタットの曇った目には軟弱に見えたようで。


 あるいはその同僚の妻が、かつてのベルシュタットの思い人だったというのもいけなかったのかもしれない。


 本人は「戦場に私情は持ち込まない」と吹聴しているようだが、ベルシュタットは明らかに感情の生き物であった。


 まるで腐った女のようである。


 いや、それは女性に失礼か。彼の性格は目先のことしか考えない禽獣そのものであった。


 たまらないのはその部下たちである。

 そのような獣の指揮のもとで戦わないといけないのだから。


「……これは大佐には二階級特進してもらうべきかな」


 セリカはそう思った。


 敵軍、一個師団と勇戦中の戦死、その後、部隊の指揮を引き継いだ少女が見事、敵師団を壊滅。


 そのようなシナリオが描ければ一石二鳥である。

 ベルシュタットは戦死によって二階級昇進、同期よりも上の少将となる。

 一方、セリカは初陣にして大金星を挙げ、昇進する。

 誰も困らないどころか、08部隊の魔導兵たちは歓喜するだろうし、帝国にとっても無能な士官を排除しつつ、戦況を有利に運べる。

 誰も傷つくことのない処置だ。

 そう思ったセリカはなんの躊躇もなくそれを実行する。



 セリカたち08魔導部隊が南下し、敵の歩兵師団と戦闘になった。


 敵の歩兵団は約8000、セリカたちの部隊は魔導兵30、歩兵500、およそ勝負にならない数であるが、セリカたちは勇戦した。


 否、セリカだけが勇戦した。

 戦車や戦闘機にも等しい魔導兵であるが、08部隊の彼らはほとんど新兵。

 物の役に立たない。

 初陣だというのに圧倒的な力を見せているのはセリカだけであった。

 セリカは帝国から支給された五本のロングソードに魔力を込める。


 一本は魔女の箒代わりにその乗り物とし、残りを自動追尾兵器として殺戮兵器とすることにした。


 要は前世のロボットアニメに出てくるアレである。


 4本のロングソードは意志を持つかのように動き回り、次々と敵兵を殺していった。


 慈悲はない。

 自分の上官にすら慈悲をかけないものが敵兵に慈悲をかけるわけがない。

 悪魔のような働きで敵の歩兵師団を減らしていく。

 しかし、敵軍も無能ではない。

 敵歩兵は戦列を組むと、十字砲火をセリカに集中させた。

 セリカは二本の剣を手元にやると、それに防壁を作らせ、弾の雨を防いだ。


 鉛玉がセリカの前まで来ると、黄色い障壁が出現し、鉛玉が宙でとまり、地上に落ちる。


 その姿を見て敵兵は驚く。


「ば、馬鹿な、これは対魔導兵用に聖別した銀を混ぜた銃弾だぞ」


「ありえない。一発だけならともかく、この数を同時にさばくなんて」


「ま、魔女だ。この女、魔女だ」


 馬鹿だ、ありえないだ、魔女だとさえずるが、要はお前らが無能なのだろう、心の中でそう言うと、魔女らしく、彼らに報復した。


 空中で受けた銃弾をいくつか手元に残すと、それに魔力を付与し、撃った本人に返す。


 彼らの眉間にライフル銃の口径と同じくらいの穴が開き、ぴゅうっと血が噴き出る。


 敵が驚いている間にセリカはロングソードを操り、次々と相手の首をはねていった。


「なんとか無双だな、まるで」


 前世でプレイしたことのあるゲームを思い出す。


「もっとも、あのゲームはこのようにリアルではなかった。いくら敵を切っても血はでなかったし、腹を切り裂いても臓腑は出てこない」


 それに匂いもない。

 戦場には独特のにおいがある。


 血と硝煙の匂い、それと新兵の漏らした小便の匂いと剣が切り裂いて飛び出た糞袋のにおい。


 要はとても酷い臭いにおいであったが、それもすぐになれる。

 全身に血を浴びると多少の匂いでは驚かないようになっていた。


 さて、そのように圧倒的な力を見せていたセリカだが、このままでは当初の目的を達成できない。


 セリカの目的のひとつに糞のような上官の死というものある。


 彼には是非、戦死してもらわねば、そのためには敵の主力を彼のもとまで誘導する必要があるだろう。


 そう思ったセリカは逃げる歩兵は深追いせず、敵の主力がくるのを待った。

 これほど派手に暴れまわったのだ。

 これほど敵兵を殺したのだ。

 怒り狂った敵軍が、主力の魔導兵を差し向けてくるのは当然であった。

 事実、十数分後、遠方に黒い影を発見する。

 遥か前方に強大な魔力を感知する。

 その数5、なかなか強力な魔導兵が5人、こちらに向かっていた。



 それぞれおもいおもいの武装をしている。


 宝剣にまたがっているもの、宝槍にまたがっているもの、巨大なライフルにまたがっているもの、天馬をもした木馬にまたがっているものもいる。



 彼らは殺意に満ちた目で、一直線にこちらに向かってきた。

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