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初陣

 魔導科を選び、魔導兵としての道を歩みだしたセリカ。

 魔導兵となったのと同時に皇帝陛下から宝具をたまわる。


 前述したとおり、魔導兵とは宝具と呼ばれる兵器にまたがって戦うのだが、魔導兵にも適性があり、一番、相性のいいものが与えられる。


 セリカとしてはドレアヒト家のような立派な大剣が欲しかったのだが、さすがに下士官である士官候補生に支給されるわけがない。


 セリカに支給されたのは古代遺跡から発掘されたロングソード五本であった。

 魔力は宿っているが、それでも貴族が持っているような逸品ではない。


「まあいい。伝説級の宝剣をたまわるのは正規に軍人となり、手柄をあげたあとでも十分だ」


 とりあえずありきたりなロングソードを支給されたセリカは、さっそく、その兵器の威力を確かめる機会に恵まれる。


 魔導科の教官であるとある中佐は言った。


「本日、大規模な実戦演習が行われる。我が国の山間部に巣くうゴブリンどもを掃討する」


「ゴブリン退治か……」


 心躍るものではないが、宝剣の初陣としては悪くない。

 ゴブリンの緑色の返り血を浴びるのは不快であるが、まあ、仕方ない。

 そう思っていると隣の男が挙手をし、質問をした。


「教官殿、通常、ゴブリン退治は警察や地元の猟師の仕事だと思うのですが、我々が横からしゃしゃり出ていいのでしょうか」


「それについては問題ない。そもそもゴブリン退治の要請は、地元の自治体を通し、正式に軍部に依頼されたものだ」


「それはつまり警察や猟師では手に負えないほど繁殖している、ということでしょうか」


「そうなるな」

 と教官は言った。


「……となると地元の女どもが大量にさらわれたのか。惨いな」


 男は言う。


「私情を挟むな。我々の任務はゴブリンどもを駆逐することにある」


 セリカが冷静に言うと、男は反論した。


「セリカ、君は同じ女として村娘に同情しないのか」


「しないね。さらわれる方が間抜けなのだ」


 その言葉に男は信じられない、と言った表情を返す。


 ちなみになぜ、このようなやり取りをしているかというと、ゴブリンという生き物にはメスがいないからだ。


 ゆえにゴブリンは繁殖するとき、他の種族のメスの腹を借りる。


 要は豚や羊などの家畜を奪ってそれらを孕ませるか、鹿などの野生動物を孕ませて自分の子を産ませていた。


 ただ、地元の警察が手に負えないほど繁殖しているということは、おそらく、村娘などもかどわかされており、繁殖用にされているのは明白であった。


 隣の男はそのことに怒っており、憤っているのだろう。

 それにセリカの態度にも。


 ただ、こんなところで憤慨してもどうしようもないのは事実なので、セリカは男を軽くあしらうと、腰にぶら下げたロングソードの手入れを始めた。


 近く、大規模な戦闘が始まる。


 私的な感情に支配されれば、たとえゴブリンとの戦闘でも命を落とすかもしれない。


 戦場に立ったことのないセリカであったが、そのことは肌で実感していた。


 事実、先ほどセリカに食ってかかってきた男はゴブリンとの戦闘によって死亡する。


 ゴブリンどもに犯され、気が狂った女によって刺殺されたのだ。


 彼女は長年ゴブリンに監禁され、子供を十匹も生まされ、精神を病んでいた。ゴブリンを自分の夫と思い込むようになってしまったのだ。


 そして自分の夫を殺した男を殺し、かたき討ちをしたわけである。

 このように私的な感情は、己の命さえ奪うのだ。



さて、哀れな同級生は死んだが、セリカは死ぬことがなかった。


それどころか、誰よりも多くのゴブリンを殺し、誰よりも多くの村娘を救った。

彼女たちの無念を剣によって晴らした。


ロングソードにまたがり、4本の剣を従えさせると、それを従卒のように操り、 ゴブリンども成敗をした。

ゴブリンは強力な魔物ではない。

頭が回るわけでもない。


だが、狡猾で残忍な性格で、武器なども装備している。

多くは人間から奪った剣や農具だが、中にはそれに毒を縫っているものもいる。


強力ではないが、その繁殖力はすさまじく、放っておくと今回のように大繁殖し、地元の猟師や警察レベルではどうしようもなくなる。


事実、今回発生したゴブリンは数百匹にも及び、魔導兵でもそこそこ手こずる数であった。


ただ、その中でもセリカは勇戦し、八面六臂の活躍をした。


4つの剣を魔法によって手足のように操り、次々とゴブリンの首を飛ばし、はらわたをぶちまけた。


同級生たちはその活躍を黙って見つめていたわけではないが、あまりにもセリカが圧倒的だったので、後半、彼らはセリカの戦闘をただ見つめるだけだった。


美しく舞い、ゴブリンを殺していく姿に魅入られていた。

その中のひとりが、後年、こんな述懐を述べる。


「あのとき、セリカ・デッセルフという少女と共に戦った魔導兵は20人、生き残ったのは18名だが、残りは全員、栄達した。しかし、それでも彼らは生涯、あの少女が初陣で見せた輝きには及ばなかった」


 要はセリカの初陣はそれほどに凄まじく、可能性を感じさせるものだったのだ。

 それは指揮をしていた教官も認めるところで、彼は報告書にこう書いた。



「セリカ・デッセルフ、その働き、古今無双なり。その魔力、底が知れず」



 その報告書により、セリカは卒業後、最前線に配属されることになる。

 中尉としてだ。


 通常、士官学校を卒業したものは少尉として任官するが、セリカは一足飛びに中尉となったのである。


 それはこのゴブリン退治において多くの村娘と同僚を救った功績でもあった。

 村人たちから是非に、という嘆願があったのだ。

 半年後、セリカは士官学校を飛び級で卒業し、最前線に配属される。

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