オセロしよう
「すっごいかわいい子だったねー、お姫様みたいなキラキラした馬車に乗ってたしー、実はお城に住んでたとかじゃないかな⁉︎あ、しかもあの白い肌はー…」
さっきからずっと一人で盛り上がっているなおに「ちょっとうるせぇよ。」なんて悪態を付きながら、俺たちは秘密基地への道のりを歩いた。
何となく木漏れ日は、馬車を一目見に行こうとしていたときよりも暗くなった気がした。それでもなおは楽しそうだったんだけど。
「…何か理由があるのかな。」
椅子に腰掛けて、考え込むように沈黙を続けていたそうたが、不意に呟いた。
「あんな田舎者を見下すような発言をする人が、好き好んでこんな辺境に来ると思う?」
俺となおに問った。しばらく考えて俺は答えに辿り着く。
「…あっ!没落貴族とかじゃねぇの⁉︎殺されそうになって逃げてきたんだよきっと!」
「じゃあー、かわいそうなお嬢様なんだ!!」
これ名案とばかりに、俺となおは、はしゃいだ。
「それは無いんじゃない。だったらあんなキラッキラの馬車には乗ってこないはずだよ。」
結構考えたんだけどなぁ…とかなおと同レベルか…とかそういう感情が、なんだかもどかしかった。
「じゃあ、そうたはどういう理由だと思ってるんだ?」
「それは…」
黙り込んでしまったそうたに、俺は落胆した。そうたがわからないことを俺となおが考えたところでわかりっこないじゃん。
「あー!わかったよわかったよ!」
突然なおが大声をあげた。
「しょーもないこと言ったら、今日は俺とそうたでオセロするからなー?」
「ううん!大丈夫!ぜったい名案だもーん。」
俺とそうたの視線がなおに向く。「ちょっ、けんくん、恥ずかしい。」とか言ってる。いやいや、早く言えよ。
「まあ、とりあえず言ってみてよ。」
そうだが促すと、なおが得意げに始めた。
「きっとねー、お嬢様が、病気なんだよー!田舎のキレーな空気とキレーな水で療養?しにきたんだよー。」
俺はそうたと机を挟むように椅子を設置し、俺とそうたは声を揃えた。「「オセロしよう。」」
割となおの発言に期待した自分を恥じた。
本気でオセロを始めようとしていたところでなおが唐突に言った。
「あっ!けんくんのおとーさんがこっち来る!」
「やべぇ、早く隠れるぞ!!」
俺たちは、机もテーブルもオセロも、全部ごちゃ混ぜにして木の根の下に急いで隠す。
なぜここまでするかと言うと、大人たちは俺たちが森で遊んでいるのを嫌うからだ。しかもその嫌がりようは顕著なもので、秘密基地を潰されたことも一度や二度ではない。
逆になぜ俺たちが森に集まるかといえば、ここには虫も動物も居るからだろうか。特に理由はないけれどここに来たくなる。
急いで道へ出て、隣町の図書館で借りた本を持って、三人で話しながら歩く。
「ぁあ。父さん、珍しいじゃん…どうしたんだ?」
軽く一芝居打ってやろうと企んでたんだけれど、父さんが汗を掻きながら走ってくるのを見て、何かあったのかと思った。
「はぁ…はぁ。馬車見てないか?金色の馬車だ。」
肩で息をしながら父さんは続けた。
「お嬢様の忘れ物だ。夕方までに届けなきゃならん。」
「さっき向こうへ行かれましたよ。」
事情聞くなり、そうたが答える。
「そうか、ありがとう。」
礼だけ言うと父さんはまた走って行った。大変だなぁと思いつつ見送る。
走れ父。志が高ければどんな偉業も達成できるって、昔同じように走った偉人が証明した。セリヌンティウスが居ないからって志半ばで果てるような、情けない真似はしないでくれ。
そう願っていると、山の向こうから雄叫びが聞こえた気がした。