僕らの日常
ジリリと鳴く蝉の鳴く中、ジリジリと降る陽射しの下で、田んぼの手入れをするのが、この村での就職先だ。きっと都会暮らしの人はしみじみとこう言うんだろうな。「長閑でいい村だ…」
実際住んでいると平和で長閑なだけの村は、ただただ暇で何もすることがない。だから俺らは今日も、森の秘密基地に集まっている。とは言っても森は大概どこでも、秘密基地にできるんだけど、この崖ギリギリの場所は最高だ。村も見渡せるから、とうちゃんが来てもバレる前に逃げられる。
「今日の俺の“面白いことレーダー”はビョンビョンに反応してるぜ!!!これは本物に違いない!」
「お前それこの前も言ってたよな?あの時は雨が降ったんだっけか?」
俺の熱い熱い語りかけにも、そうたは冷めた対応をする。それにこの前はジャンジャンだし。
「ちげぇんだよ!この村に引っ越ししてくる家族がいるんだよ!しかも俺らと同い年くらいの子供がいるらしいぜ?」
「んなわけねぇだろ、こんなど田舎誰が来るんだよ。」
「かぁあ…冷めてんなぁ、だから彼女できねぇんだよ。」
本気で信じてないとでもいう風に手をヒラヒラ振りながら、丸い木の椅子に腰掛ける。秘密基地っていうのも伊達なもんじゃなくて机とか椅子とか、いろいろあるんだ。
「…女なんてなおしかいねぇじゃん。」
「あ、そう!なおならきっと知ってるはずだ!」
「はいはい、そうだね。ところでそんなに熱く語らって、お前暑くないの?」
俺の言うことを完全に信じないことにしたみたいだ。こうなるとそうたは絶対に動かない。それに頬を大粒の汗が流れたのがわかった。暑いし。やめだ、やめ。
「そうそう、この村にそんな楽しいことなんてないの。なんでもいいから将棋かオセロしねぇ?」
「…ページワンでいこう。」
「やだね、チェスだ。」
盤ゲームで勝てないことは、立証済みの案件だ。それをわかってて毎回提案するんだ。トランプを箱から取り出していると、汗を拭いながらなおが、ちょうど崖の下の道を向かってくるのが見えた。
「今日はなおも来たみたいだぜ?残念ながら2人用のゲームは論外だな!ページワンで決定だ!!」
「まあ、なんでも俺が勝つからいいよ。」
「えー、なおはすごろくがいいかなぁー。」
ページワンで決まりかけたところで、なおの抜けた声が聞こえた。
「あ、人生ゲームでもいいんだよー?でもそのときはー、なおもけんくんとおんなじ車に乗せてね?」
もじもじしながら、上目遣い気味に言うなおを見て、女の子なんて殆ど見たことないけど、かわいい方だろうな、と思う。
「はいはい、夫婦漫才はもういいから。なおがけんとの車に乗ったら俺とけんとしか遊べないだろう、バカ。」
「夫婦になった覚えはねぇし。」
そう、可愛いんだけれどこれが常だからなぁ。慣れって怖いもんだ。俺らは3人で兄妹みたいなもんだから、俺らが付き合うことはきっとない。仮に俺らが付き合うことはあっても、そうたに他の女はいない。つまりそうたはやっぱりいつまで経っても彼女はできないってことだ。
そんな風に3人で楽しく会話していたら、村の方が騒がしいことに気づいた。村の方を見やると、見慣れない荷車が、町長の家の前で止まっていた。