楽しい北欧旅行のあとは
ノルウェーに着いて色々観光地をめぐりました。物価が高いことを除けば、ノルウェーに住みたいと思ってしまいました。食べ物が非常に美味しいのです。今でもマユちゃんと会うと、ノルウェーのエビのお話をしますね。サーモンもよかったですが、もはやノルウェーの印象はエビです。国立美術館に行ったときのことも印象的でした。
「少し時間が押していますので、早めに集合です」
添乗員さんにそう言われて、私とマユちゃんは慌てて館内を見回ります。フラッシュを使わなければ写真撮影も大丈夫だったので、有名な絵画のところで急いで写真を撮りました。あとから確認して、マユちゃんと顔を見合わせました。
「すごくブレていて怖い……」
「……やたらと迫力ある『叫び』だね」
ブレブレのムンクの『叫び』の写真は未だに持っています。なんだか手放せないのですよね。
名残惜しく、ノルウェーからスウェーデンへ。そして、最後に一番の目的のフィンランドに行きます。スウェーデンの空港内で、同じツアーのご夫婦に注意されました。
「あなたたち、さっき多額のお金を両替していたでしょう?」
「え? はい」
「気をつけなさい。狙われているわ」
私たちはびっくりしました。治安のいい北欧で狙われるとは思わなかったです。荷物を大事に抱えて添乗員さんの隣に座りました。添乗員さんは男性だったので、心強かったです。
何事もなく、フィンランドの首都、ヘルシンキに着きました。薄紫色の夕闇の中に浮かび上がる白樺の木々。私が憧れたフィンランドの風景がそこにありました。森と湖の国であるフィンランドは「スオミ」と言います。ジャパンを「日本」と呼ぶのと同じですね。
そんなフィンランドではハプニングに見舞われました。自由行動で、ヘルシンキの主な交通手段である路面電車に乗ろうとしたのですが、切符を買っても、その切符をどうしたらいいのかわかりません。乗客の方がジェスチャーで教えてくれました。それはよかったのですが、マユちゃんは切符を買う時点でつまずいています。
「~~~、~~~」
フィンランド人の運転手さんがフィンランド語で何か言っているのですが、私たちには理解できません。フィンランド語は簡単な挨拶くらいしかできないのです。私はマユちゃんの手元に気がつきました。
「マユちゃん、日本円じゃ切符を買えないよ」
「あ……」
マユちゃんは間違えて、日本円を出していました。私たちの電車が停止しているので、路面電車は大渋滞です。ヘルシンキのみなさまにご迷惑をおかけしてしまいました。
路面電車を降りて、免税店を探したのですが、道に迷ってしまいました。異国で大学生女子二人が地図を持ってうろうろ。言葉が通じませんので、道を尋ねることもできません。二時間ほど歩き回って、ようやく免税店に着きましたが、危険なことが一切なかったことは驚きです。途中でフィンランド人のおじさまに「ハロー」と声をかけられたくらいでしょうか。どうして突然「ハロー」と言ってきたのか謎です。
免税店や市場でお土産をたくさん買いました。ホテルに帰って買ったものを分けていたのですが、市場で買ったトレーナーを見てみますと……。
「このトレーナー、『MADE IN IRELAND』って書いてあるよ」
「ああ、失敗しちゃったね。でも格好良いトレーナーだね」
マユちゃんに慰められました。「Helsinki Unibersity」というトレーナーでしたので、ヘルシンキで作られたものだと勘違いしてしまったのです。でも考えてみますと、東大生でもないのに「東大」と書いてあるトレーナーを着ている状態かもしれません。トレーナーを帰国してから着ましたが、特に何も言われませんでした。
ムーミン人形が高価だったので、スナフキン人形を多めに買いました。ムーミンよりスナフキンのほうが色合いなど複雑でしたが。ムーミンが主役だからでしょうか。添乗員さんはムーミンショップで「姪っ子に」と可愛いシャツを買っていました。覚えたフィンランド語で「キートス(ありがとう)」と店員さんに言ってみましたが、爽やかな笑顔で「ありがとうございましたー!」と日本語で返されてしまいました。日本人観光客慣れしているようです。
たった一週間の北欧旅行で、数か月かけて貯めた五十万円は使い切りました。楽しかった旅行ですので、使い切って悔いなしです。美しい風景の北欧とはお別れ。飛行機に乗って帰ると、またいつもの日々に戻ります。明日は──。
「……やっぱり時差ぼけで出勤できません」
無茶なアルバイトのシフトだったのです。「無理だ」と言っていたのですが、帰国した翌日にシフトに入れられていました。無理だったら無理と拒否してもいいという条件だったので、遠慮なく電話してお休みします。店長に笑われました。
「時差ぼけで休むやつは初めてだよ」
「最初から駄目だと言っていたじゃないですか……」
もうそんなに稼ぐ必要はないのですが、再びアルバイトの毎日が始まりました。