尊敬していますよ?
大学のオーケストラの部活は、全員で四十人~五十人くらいいたと記憶しています。ですが、私のホルンパートは四人しかいませんでした。一学年上の先輩二人、私と同学年の女の子一人です。
パートリーダーの女性の先輩は、非常に綺麗な人でした。ホルンも中学一年生からやっていたので上手です。思いやりがあり、優しくて、頭のいい先輩でした。私は一目で先輩に憧れました。いつも先輩に付きまとっていました。
同学年の女の子は、小学校四年生からホルンを吹いていました。先輩と同じくらい上手です。同学年のよしみで、「ホルンをうまく吹くコツを教えて!」と頼んでいました。いつの間にか、「御師匠」という愛称で呼んでいました。
部活はそんなに厳しくありませんが、やたらホルンが難しい曲ばかりやります。私も高校から吹いていましたので、「初心者」というレベルではありませんでしたが、先輩や御師匠には敵いません。先輩や御師匠がいたから、ホルンが難しい曲を選んでやっていたようです。
でも、たくさんの人たちとお友達になり、楽しい部活動でした。合宿は思い出深いですね。五泊六日、楽器三昧。夜は飲み会です。翌朝、朝ごはんの準備をする係だったので、私は御師匠を起こしました。
「御師匠、起きて、起きて」
「……うーん」
「朝ごはんの準備をしないと」
彼女は少し目を開けました。
「ちょっとしたら行くから、先に準備していて」
「わかった」
返事をして、朝ごはんの準備に取りかかります。御師匠はいつまで経っても現れません。私が一人で準備しました。やがて、みんなと一緒に御師匠が来ました。
「一人で準備したの? なんで私を起こしてくれなかったの?」
「起こしたよ。先に準備していてって言ってたじゃん」
「……覚えていない」
御師匠は一見しっかりしているように見えますが、実はそそっかしいところがあるのです。合奏で堂々と間違えて吹くものですから、私もつられて間違えたことがあるので、それ以降彼女をからかって遊んでばかりいました。
御師匠をいじめて遊んでいたある日。彼女はぽつりと言いました。
「こんなに敬われていない『御師匠』っていないんじゃないかな……」
ホルンの技術は敬っていますよ? ただ、性格が天然で面白いので遊んでしまいます。今でも仲の良いお友達として付き合っています。