店長の私生活
ランチ前の十一時。私はアルバイト先で、お冷を大量に作ったり、スープの準備をして混雑に備えていました。そこへ店長が出勤してきました。なんだか浮かない表情です。
「どうかしましたか、店長?」
訊いてみますと、店長は深刻な声音で答えました。
「朝起きたら、奥さんがいなくなっていて、家じゅうの通帳と印鑑がなくなっていたんだ……」
「ええっ!?」
思いがけないお話に私は驚きました。
「店長! なんで出勤しているんですか!? 早く奥さんを追いかけないと!」
「でもなあ……。奥さんの実家、九州だしなあ……」
ここは都内です。九州は遠いです。でも店長、仕事している場合ではありませんよ!?
結局その日、店長はラストまで働きました。
数か月後、店長の左手薬指から銀の指輪がなくなっていました。私はあえて突っ込まず、静かに見ていました。
そうして月日が流れて、女性のパートさんがお店を辞めるというので、送別会が開かれることになりました。私は用事があって送別会に出られなかったのですが、アルバイト仲間から深夜にメールが届きました。
『パートさん、店長と出来婚だって! もう妊娠して五か月なんだって!』
人手不足の職場は、いつだってハードな仕事量です。みんなパートさんが妊娠していることを知らず、一緒にハードな仕事を行ってきました。知っていましたら、もう少し配慮したのですが……。
今はもう疎遠になってしまっていますが、最後に聞いたお話では、パートさんは元気な男の子を出産し、店長と仲良く暮らしているそうです。