俺に任せて、お前は行け!
アルバイトより先に、私は大学でオーケストラの部活に入っていました。高校時代もブラスバンドでホルンを吹いていましたので、またホルンが吹きたかったのです。エレクトーンとフルートも続けていましたので、三つ楽器をやっていたことになりますね。音楽は好きですし、部活も週に三日の厳しくはない活動でしたので、とても楽しい大学生活を送っていました。
そこへ暗雲が。
平均年収百四十万円のアルバイトということは、まあ、それだけ人手不足だったということです。アルバイト先は洋菓子店だったのですが、ホールもあって、私はウェイトレスをやっていました。とある日曜日、私は付き合っていた彼とデートの約束をしていて、アルバイトのお休み希望を出していました。
「この日曜、どうしても出られない?」
男性店長に困った顔で尋ねられました。いつものように人員が足りないらしいです。でも、デートは先に約束をしていて、それを破るわけにもいきません。
「えーと。デートが十四時からなので、十三時まででしたら働けます」
私は妥協案として、十三時まで働くことにしました。
そして日曜日。朝から滅茶苦茶混みました。十二時には満席です。私と店長と二人で、懸命にホールで働いて、なんとかお客様をお待たせすることはありませんでした。
「よーし、いいぞ。この調子でいけば……」
そこで店長の言葉が止まりました。時計を見ると十三時です。私が仕事を上がる時間です。
「しまったあ! お前が上がりか!」
「そうですね。ですが……」
この混雑具合を放って、デートに行くのは気が引けます。私が上がってしまったら、店長が一人でホールのお客様の接客をすることになります。私が躊躇していますと、店長は男らしく叫びました。
「ここは俺に任せろ! お前は行け! 行くんだー!」
「……」
どこの熱血少年漫画の台詞ですか。店長の言葉に追い立てられて、私はデートに向かいました。
翌日アルバイトに行くと、売店の社員から恨みがましい目で見られました。
「昨日、お前が帰ったあと、そりゃもう大変だったんだぞ。すごい混みようで、店長が倒れそうになっていたんだ。たかだかデートだったんだろう?」
「……すみません。でも店長が帰っていいって……」
次のデートで同じようなことが起きたら、デートを断ろうと思いました。