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告白~3月~

僕、山木葵は、女性恐怖症なのだが、女子2人のバンドに加わることになってしまった。僕の日常は、変わろうとしている・・・

3月2日、午後1:40分。快晴なので少しだけホッとする。とはいっても、外にはまだ雪が積もっているので、自転車は諦め、歩いてカフェに向かうことにする。考えてみると、休みの日に外に出るなんて久しぶりだ。でも、うきうきしているかというと、それは逆だ。今外に出ているのは、バンドを組むことになった川田麗奈に誘われたからだが、女性恐怖症の僕にとっては、彼女と2人で会うなんて拷問みたいなものだ。それに、何せ今日から学校は春休みだ。2人でいるところを誰かに見られたらどうする? そんなことを考えているうちに、カフェに着いた。入り口で待ち合わせたから、彼女はまだ来ていないんだろう。カフェの中に知っている顔がないか確認する。このあたりはかなりの田舎だから、そこそこ栄えているこの町でも、カフェなんてほとんど無い。僕の不安は案の定的中し、中には、昨日まで同じクラスだった男子の連中がいた。そのとき、

「ごめーん、ちょっと遅れちゃった」

笑いながら彼女が走ってきた。私服を見るのは初めてだけど、まあ普通の服装だ。2人でそーっと中に入るが、席を立った男子とすれ違ってしまった。「えっ、葵と麗奈じゃん! 葵が女子と付き合うなんてすげぇ」という声を無視して奥に進む。なんと間が悪い。僕は1人で奥の席に座る。

「葵君は彼氏じゃないよって言っといたよ! それにしても、私たちカップルに見えるんだね!」

と言いながら、彼女は僕の向かいに座った。

「さて、何飲む? 私はコーヒーにする」

「じゃあアイスコーヒー」

「アイスコーヒーかぁ。砂糖いる? ミルクは?」

「いらない」

とりあえず冷たい物を飲んで気持ちを落ち着かせたい。もう汗をかいている。

「顔真っ赤じゃん。もしかしてドキドキしてる?」

「べ、別の意味でね」

「あ、でも今ちょっと上手いこと言ったね。確か女の子が怖いんだよね?」

「そうだよ」

「まあ理由は聞かないであげよう。とにかく、私相手に緊張しなくていいよ。リラックスリラックス」

と、絶妙なタイミングで飲み物が運ばれてくる。彼女は即、ミルクを5つ、砂糖を10袋投入している。

「葵君ブラックなんだー。苦くないの」

「苦いところが好きなんだよ」

「へぇー大人! あ、そうそう、それで今日ここに呼んだ理由なんだけどね」

そうだ。それが一番気になる。アイスコーヒーを飲むと、多少熱がひいた気がする。

「君は、香澄先輩に次ぐ2人目の、衝撃の告白を聞いた人になるんだ」

「こ、告白?」

熱が再び上がる、アイスコーヒーを一口飲み、どうにか「それは何?」と聞き返す。

「私、実は病気なんだ」

「病気・・・」

目の前の、いつも笑っている少女が病気? とてもそうは見えない。風邪? でもそれならわざわざ呼ばないはずだ。ということは・・・

「お察しの通り、難病だよ。ジルロイド症候群。」

「ジルロイド?」

聞いたことがない。どんな病気なのかもさっぱりわからない。もしかして、笑顔が消えない病気か?

「ジルはねぇ、普段は何も症状が無いんだけど、ある日突然、熱が出て、全身が痛くなるの。病気がわかったのは1月だった。それから2回発作が起きたんだけど、もうほんとに死ぬかと思うよ」

そう言うと彼女は笑った。何が面白いのかさっぱりわからない。

「それで、発作が一度起きる度に、体のエネルギーはいっぱい無くなるの。最終的には死んじゃう。治療法もないから、私はもう長く生きられないんだ」

「待って。死ぬ? 君は死ぬの?」

「葵君だっていつかは死ぬけど、私はあと1年で死ぬよ。余命1年って言われたからね」

「余命・・・1年・・・」

残り1年しか生きられない少女が、今カフェで僕の目の前に座っている。残り1年しか生きられない少女が、軽音楽部でバンドを組んでいて、僕をメンバーにした。どうして、僕は彼女に残された短い時間の登場人物になったのだろう。

「驚いた? 残念ながら冗談じゃないんだ。だから、私は残りの1年で、やりたいことを全部やり尽くすつもり」

「どうして残り1年の人生なのに、僕なんかを誘ったの?」

「言ったじゃん。君しかいないからだよ。だから、1年だけでいいから、私のやりたいことに付き合ってよー。お願い!」

「君しかいない」この言葉はどういう意味なんだろう。ここで、「もっといい人がいるはずだよ」と断るか。そうすれば、女子相手に緊張する日々はなくなる。でも、やはり、「余命1年」という言葉は重い。

「・・・わかった」

「やったぁ!! じゃ、一年間よろしく! 死にかけの少女だから優しくしてね!!」

「でも君は1年後死にそうには見えない」

「まあ、一応治療薬の開発はしてるみたいだけど、1年では厳しいね」

「死ぬのは怖くないの?」

「別に怖くないよ。だって、魂は人の心の中で生き続けるからね。って、葵君と女の子の会話が続くなんてね。これは麗奈マジックかも!!」

「・・・じゃあ僕は帰るよ」

「えー、もう帰るんだ。あ、もう1時間も居座ってるのかぁ。じゃあ今日はお開きということで」

軽音楽部の練習日程のプリントをもらい、家に帰る。明日は部活がないみたいだ。そういや、入部届けはいつ出せばいいんだろうか。疑問はたくさんあるけど、今日は一度頭の中を整理したい。


帰ったらすぐ、僕は「ジルロイド病」を検索していた。日本での報告件数はわずか5件。彼女はその中の1人なのだろうか。他にも、治療法なし、生存率は極めて低いといった、絶望的な言葉が並ぶ。でも、自分はどうして、彼女の病気について調べているのだろう。そう考えてみると、やはり彼女のことが他人事ではなくなったんだと実感する。頭の中で、今日の出来事を振り返る。軽音楽部に加わることになり、カフェで病気の話を聞いた。どちらも、昨日の自分は絶対予想できなかっただろう。カフェで、自分でも驚くほど女子と会話をしたことも。

彼女はどうしていつも笑っていられるのか。どうして「僕じゃなきゃ駄目」なのか。聞きたいことはたくさんある。それをどんどん聞けるほど慣れたわけじゃないけど、いずれは知る日がくると思う。







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