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出会い~3月~

3月。卒業式の季節。僕の通う広岡第一高校は、例年通り3月1日、つまり昨日卒業式を迎えた。ということで、今日から春休みなのだが、僕は今、第二音楽室、軽音楽部部室の前にいる。その理由は、昨日の出来事だ。

その前に、僕の自己紹介をしておく。山木葵、16歳。4月から高校3年生だ。高校ではそれなりに楽しくやってるけど、小中と、僕は女子に虐められていた。女子みたいな名前に加え、見た目も、いわゆる不細工というやつで、上履きが無くなったり、机にゴミが入ってるなんてのは毎日だった。そんなわけで、僕は、極度の女性恐怖症になってしまった。クラスの女子から、「消しゴム落ちたよ」と言われるだけで、冷や汗が頬を伝う、そんな具合だ。

昨日、卒業式が終わり、帰ろうとすると、「待って」と後ろから声が聞こえた。女子の声に恐る恐る振り向く。

「葵君、ちょっとお願いがあるんだ」

「へっ・・・・」

「もし良かったら、明日軽音楽部の部室に来てくれない? バンド組んでた先輩が卒業しちゃったから、メンバーがもう1人ほしいんだ」

「えっ・・・な、何で僕なの・・・」

「 そんなこと気にしないで。あ、時間は朝9時ね。」 そう言うと、彼女は友達と共に教室を出た。「おい、まさか葵が女子と、それも麗奈と話すなんて珍しいな」と誰か言っているけど、耳に入らない。川田麗奈は、クラスでも一番明るい性格で、人気者だ。見た目も、みんなが言うには「美少女」で、黒く長い髪を真っ直ぐ伸ばしている。もちろん、女性恐怖症の僕は彼女がかわいいかどうかなんてわからないけど、少なくとも人は悪くなさそう、という印象だ。さて、行くべきか否か。行きたくはないけど、ここで行かなかったら小中の時と同じ目に合うかもしれない。「明日の9時」と呟いてみてから、教室を出た。

午前8時50分。今僕は第二音楽室前にいる。女子に会うというだけで緊張している僕は、朝食も喉を通らなかった。扉を開ける勇気のない自分の情けなさを感じていると、突然扉が開いた。

「あ、来てたんだぁ!! ありがとー!! あ、カスミ先輩、葵君来てくれましたよ!!」

扉を開けた麗奈は、笑顔を浮かべている。駄目だ。汗が止まらない。さらに、「さっ、来て」と言う彼女に、腕をつかまれる。もう顔が熱い。このまま熔けてしまいそうなぐらいだ。音楽室には、彼女、カスミ先輩さんと、男子が4人いる。全員2年生みたいだ。とりあえず、女子だけじゃないことにホッとする。

「あはは、真っ赤になってる。あ、そういえば、女の子が怖いんだっけ?」

僕は、こう言われて「うるせぇ」と返せる人間じゃない。辛うじて、「そうだよ」と声がでる。

「なんか、思春期、って感じでいいね。あ、私は海野香澄。3年。ドラムやってるの。よろしく」

「私はボーカルとベースね。ちなみに、香澄先輩はね、お父さんが、あのGNEの社長なんだよ」

GNEと言えば、日本トップのIT企業だ、この先輩すごいなと素直に感心する。ここで、2人に案内され、奥にある椅子に座る。テーブルは、かなり新しい感じだ。香澄先輩がお茶と最中を出してくれたので、いただくことにする。

「それで、何で今日来てもらったかって言うと、あれ、昨日言ったっけ? 私たち2人とバンド組んでほしいんだよ。ちなみに、私がボーカルとベース、先輩がドラムやってて、君にはギターをやってもらいたい」

「ギター? 僕音楽なんて聴かないし、そもそもバンドなんて・・・」

「お、普通にしゃべれるじゃんか。ギターなら私も先輩も教えられるから心配しないで。お願い。2人でやっていくのは厳しいんだよ。先輩のお父さんの会社の業績より厳しいね」

「うるさい。うちの業績とは比べ物にならないでしょ。」

そんなやりとりも、苦笑しながら見るしかない。本当に僕は好きな歌手がいないどころか、歌手なんて10人言えるかどうか、というぐらいだ。

「ど、どうして僕なの? 女子とはほとんど喋れないし、音楽のことも全くしらないのに。」

「私が川、先輩は海じゃん。川も海も山の恵み!! ってことでたどり着いたのが山木君ってわけ。とにかく、君じゃなきゃ駄目なの。」

僕じゃなきゃ駄目・・・か。そんなこと言われたのはもちろん人生で初めてだ。

「お願いします。」と2人に頭を下げられた。結局ぼくは断れず、彼女たちのバンド「far limit」に加わることになってしまった。

それから2時間ぐらい、2人の練習を見学させてもらった。男子4人のほうは、バンドコンテストで入賞したことがあり、結構有名らしい。練習の後、麗奈に呼ばれた。

「葵君、今日の午後会おうよ! 香澄先輩は行く?」

午後まで女子と向き合わなければならないのか? さすがに疲れた。勘弁してほしい。

「私はいいよ。2人で楽しんできな。」

「ってことでさ、ねぇ行こうよ。」とまたも押しきられ、午後2時に、カフェで待ち合わせになってしまった。どうしてこんな状況になっているのか全くわからない。午後に女子と2人っきりという緊張に、腹が痛くなってくる。

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