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物語を描く理由は

作者: 北澤ゆうり

「はあ……」


 溜め息を吐きながら、成績個表を握り潰した。


「意外と勉強したんだけどなぁ……」


 ファイルに挟むため、机に散らばったテストの数々を見る。


 最近駄目だなぁ。


と椅子を軋ませながら背もたれに体を預けて思った。その際にまたテストの点数が目に入り、頭を抱えて落ち込む。


「うおおおおお。やばい、本当にやばい」


 頭をガシガシと掻き混ぜながら、叫ぶ。


『テストが全てではない』


 なんて言う人とかいるが、テストの成績なんてものは、学生の自分にとっては"全て"だ。

 今の時代なんて学歴や資格で左右する、なんて先生も言っていた。


 学校での生活が、今の自分にとって一番大切なもの。


 それに、テスト勉強という"努力"をしたのにも関わらず、このザマだ。


『何よこの成績!もっと勉強しなさいよ!』


 いやいや、お母さん。

 こう見えて、やっているんですよ。


 まあ、"結果"次第なんだけどさ。


 勉強も。

 部活も。

 恋愛も。


 自分より、何倍も何十倍も努力している人は大勢いる。そう断言できる。

 稀にそんなことしなくても、サラリと何の気もなく、他の人のやってきた努力の塊を超える人もいる。

 天才、というものだろうな。



「どこか、行きたいな……」


 そう、呟いてみる。

 机に転がっているシャープペンとプリントの裏を近くに寄せた。頬杖をつきながら、シャープペンの芯をかちかちと押し出して、紙に文字を書いてみる。



 そうだな。

 例えばだけど、異世界とか行きたいな。

 剣とか、魔法とか色々出てきて、ゴブリンやドラゴンを次々に倒していく。もちろん、この世界から異世界に行って、魔王を倒してください!なんてお願いされて。

 自分だけ特別な能力が備わっていて、ドカーンと格好良く魔王を倒した後は、夢のように綺麗な女の子と仲良くなる。


 そして、めでたしめでたし。



 あとは、うん。

 日常が、崩れていくのでもいい。

 どこかに行かなくてもいいから、何か刺激が欲しい。


 普段通りに生活していたのに、いきなり何か事件に巻き込まれて、日常が壊れていくのが面白そう。

 その事件でたまたま殺し屋とかに勧誘されるのも楽しそう。


 学生であることを活かして違う学校に侵入してナイフとか銃で戦うのも面白そうだ。


 それに、それに……



「……ふう」


 やばい。妄想が爆発していく。


 シャープペンを転がして、額を指で押さえた。はは、と乾いた笑いが漏れた。


 そもそも、機転が利くわけでもなく、力が強いでもなく、頭も良くないのが今の自分の現状だ。

 そして、テストごときの微量な頑張りを"努力"と言ってしまっている時点で、自分はどこへ行っても同じだという気がする。


 血の滲むような"努力"なんて、したことない自分。


 異世界に行ったとしても、殺し屋になったとしても


 何も出来ない。



 近くにあったスマートフォンを手に取る。

 ウォークマンから流れる音楽と指で液晶画面をタップしていく音が部屋に響く。



 自分の憧れ、願望、嬉しさ、哀しさ、夢を全て詰め込むために、現実から逃げようとするように


 僕は物語を(えが)く。



 描きたいことが増えていく度に、想像(イメージ)を言葉にして、紡いで、中の人に命を吹き込む。


 そして、自分が詰まった完成品を見て、微笑む。



「じゃあ、皆。頑張ってきてね」


 僕の代わりを、よろしくね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 前にも実は読んでいましたが、改めて読んだので感想を。 私も世界を描く一人として、共感する部分がありました。 辛い現実から目を背け、私が想像して創造する世界に飛び込む。 学生の頃から何度もし…
2018/08/28 01:34 退会済み
管理
[良い点] 心の苦しみをストレートにぶつけてくるところ。 小説を愛しているというのが伝わってくるところ。 [一言] 純文学カテゴリーならもっと曝け出してもいいと思いました! 苦悩や葛藤を削り出して、文…
[一言] 主人公同様、僕が創作をする動機も社会や日常に対する不満が根底にあるんですよね。なぜ創作をするのか、という問いに対して複雑な理論を提出する必要などないのかもしれません。 ただ、なぜ創作を続け…
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