理想の嫁にプロポーズ
仕事が終わり、学校を出た。部活動の帰りか何人かの生徒が残っていた。
「センセ、さようなら。」
「サヨウナラ。また明日な」
校門からでると猫の鳴き声が聞こえた。
にゃあ。
琥珀色の瞳に、黒い毛皮。足先だけちょこんと白い毛が混じっている。
琥珀だった。
俺の前に立ち止まり、見上げた。
「琥珀、お前なんでこんなところに・・・まさか、俺を迎えに来てくれたのか?」
琥珀が眼を閉じた。
まるで、その通りというような感じでだ。
「・・・頭のよい奴だと思っていたけど思っていたが・・・流石、魔女姫の使い魔」
俺のつぶやきを聞いた琥珀が、振り返り唸り声を上げた。
フシャアアアアアアアア
「お、怒るなよ。」
猫にまで、怒られてしまった。
俺は、琥珀の後ろをついて歩いた。
五分ほど歩いたところに、小さな日本家屋があった。
その門の前に琥珀が座って俺を見上げた。
俺は立ち止まり、その門の前を見る。表札をみると【橘】とあった。
「此処か?「橘」って表札もあるし・・・」
俺は足元に座る琥珀に尋ねた。
んにゃ。
琥珀が小さな声で返事したので、俺は呼び鈴を鳴らした。
「お帰りなさい。知先生」
ー出迎えてくれたのは、理想の恋女房だった。ー
ああ、こんな嫁がいてくれたら・・・おれ、良い亭主になるんだけどなあ。
「知先生?」
迎えてくれた恋女房・・・間違えた。
「京子センセ?」
ひらひらと、俺の目の前で手を振ってくれた彼女に俺は問う。
彼女は着物に割烹着という姿だったのだ。驚くだろう。男なら一度は夢見るだろう。着物に割烹着をきた女房が、「お帰りなさい」って言ってくれるのを。
俺と同士は多数いる。(断言)
「そうですよ?琥珀。お迎えありがとう。縁側にタオル追いてあるから、脚を拭いて入ってきなさい。」
にゃあ。
律儀に返事するのは我が息子・・・違った愛猫の琥珀。
「結婚してください。」
男なら誰だって、理想の女性が目の前にいたらプロポーズするよな。
俺もだ。
即座にプロポーズした。
だが。
敵もさるものだった。
「知先生。33歳のおばさんをからかうものじゃありませんよ。ほら、風邪を引くから中に入って」
華麗にスルー。
「京センセ。この家って」
「祖父の財産。相続税を払ったりしたらこの家だけが残った。」
いや、多分。この人、この家だけ残したんだろう。風祭さんに聞いた話だと、京センセ。おじいさんを尊敬していたと聞いていたし。
それにしても。
前を歩く着物姿の京センセはホント、そそられる。
清楚な和服美人の着物をひん剥いてあんなことやこんなことを・・・
案内されたのは静かな和室だった。
正直、小さい。だが。
本がたくさん、並べられていた。
文机と座椅子。
座椅子に乗った座布団の上には、黒猫・・・琥珀がごろ寝していた。
「理想っす。日本家屋に和室に畳の部屋に着物美人!!何ですか。この萌の嵐。俺を萌え死にさせたいんですか!!だから、結婚してください。」
「バカは休み休みいいんあさい。隣の部屋に夕飯用意してあるから、支度したら早く来なさい」
べしっと俺の頭を京センセは叩くと、部屋をでた。
俺は座布団に座っていた琥珀を抱き上げる。
「琥珀・・・全部、本音なのに・・・信じてくれねえ。」
にゃ。
琥珀は申し訳なさそうな表情を浮かべ、俺の頬を軽く舐めた。