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猫が書く徒然草  作者: 瀬古刀桜
同居にまつわるエトセトラ
8/89

家が焼けた。

始まりは一本の電話だった。

「三沢先生、大家から電話なんだが・・・」

風祭さんの言葉に俺は首を傾げつつも、その電話を受けた。

「もしもし、三沢ですが・・・」

「大変よ。知ちゃん!!」

受話器から大家の慌てた声が聞こえた。背後から、消防車のサイレンの音が聞こえる。

凄まじく、嫌な予感がした。いや、嫌な予感しかしなかった。

「落ち着いて聞いてね。アパートが全焼したの!」

「○×△□」

その知らせを聞いた時、俺の頭は真っ白になった。

風祭教頭にその事を告げると、「確認してこい!!」と一喝された。俺は予定していた授業を自習にし、自宅に向かった。


全焼だった。

どうやら放火だったらしい。警察が現場検証をしていた。

「・・・俺、どうすればいいの?」

その問に答えてくれる人は、誰もいなかった。



その日は、ネットカフェに泊まった。だが。

「いつまでもネットカフェって言う訳にも行かないしなあ。家、探さないと」

頭を冷やしたくて、俺は裏庭へ向かった。

裏庭に行くと、大きな黒猫が近づいてきた。琥珀だ。

どうしたの?とでも言うように、琥珀は俺の隣に座った。

俺は彼の頭を撫でながら呟いた。

「琥珀。俺、宿無しになった・・・」

琥珀が大きく目を見開いた。ホント、表情豊かな猫。

「昨日、学校に電話があったんだ。」

琥珀は俺を見上げていた。どうやら話を聞いてくれるらしい。

「大家からだった。アパート全焼だって。電話があった。俺、住むとこないんだよ・・・」

おーあーるぜっと。

アルファベットにすると「orz」

かなり落ち込んでいた。

その時だった。

「三沢先生」

声とともに現れたのは、琥珀の飼い主である橘京子先生。

にゃあ。なやあ。

琥珀が鳴き声を上げたので、俺は琥珀を抱き上げ、彼女に渡した。

「どうした?琥珀?」

そう言いながら、彼女は抱き上げた琥珀を受け取り、琥珀の頭を撫でた。

琥珀は京子センセの首元に顔を埋めて甘えていた。

・・・羨ましいやつ。俺も猫だったらと思う。

「隣、良いかな?」

「・・・どうぞ?」

彼女の問いに、俺は答えた。何の用だろう?

「住む所、見つかった?」

「昨日の今日で、すぐに見つかるはずないでしょう。当分は車で寝泊まりです。」

恐らくそうなるだろう。今、考えられる中で一番現実的な選択だろう。だが。

俺の答えに彼女は笑った。

なやあお

琥珀も何かを感じたのだろう。短く鳴いた。

「学校から歩いて五分、トイレ、バス共同。家事手伝い要。家賃はそうね。三万円」

「?」

トイレ、バス共同でも、家賃三万円はかなり破格である。だが・・・

「えっと・・・」

「うちに来るかって聞いてんの」

京センセは俺の様子に、盛大に溜息をついて言った。

「イマ、ナニヲオッシャイマシタ?」

幻聴だろうか?だが。

「何で、カタカナになってんの?まあ、いいや。はい、これ鍵」

渡されたのは黒い猫のストラップがついている鍵だった。

「女と猫一匹のわびしい一人暮らしなのよ。部屋も余っているし、どうかなと思ったんだけど・・・もし恋人がいるなら」

俺は彼女の言葉を即座に否定した。

「いません!!そんなの全然いません!ぜひともお願いします」

「・・・分かった。今日は寒いし、おでんにするから楽しみにしてなさい」

そういうと彼女は、抱いていた愛猫を地面に降ろし、保健室へ戻っていった。



「琥珀。」

琥珀が俺をじっと見上げた。

「俺、夢を見ているのかなあ?好きな人といきなり同居って・・・」

夢じゃないだろうか。

俺は、手で自分の頬を掴むと、左右へ思いっきり引っ張ってみた。

痛い。

「俺、耐えられるかなあ」

好きな女と同居なんて。

みゃあお。

何とも言えない表情を浮かべた琥珀が短く鳴いた。

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