昔話 その十五
「ひょっとして、イベント中止か?」
仲田さんの言葉に、再び楽屋内に衝撃が走った。
「ドラムスの金井さんと歌手のRIRIさんだけは、先にこちらに来ていたので、事故に巻き込まれなかったのですが・・・おそらくは中止に・・・」
スタッフの言葉を遮ったのは、佳奈ちゃんだった。
「待ちなよ。お偉いさんに一点だけ、確認してもらえる?舞台にピアノを搬入できるかどうか?それが可能なら、代理ができる人間が揃っていると伝えて。」
佳奈ちゃんの言葉にスタッフの一人が走った。楽屋内に再び衝撃が走る。
そりゃあそうだろう。
代理ができる人間って・・・まさかね。
佳奈ちゃんは、ちらりと栞さんを見た。
栞さんは何かを察したのか、佳奈ちゃんに頷くといった。
「ドラムスをこっちに呼んで。あと楽譜見せてちょうだい!本番直前一発勝負になるけど、なんとか編曲するから!!」
佳奈ちゃん、栞さん、まさか・・・
「まさか、私達で?」
「そのまさかだよ。コントラバスとサックスは私の車の中にある。ドラムとピアノがあれば、いつもと・・・【止まり木】とほぼ同じだ。」
にやりと笑う佳奈ちゃんの言葉に、私は冷や汗が流れた。
どうやらモンテリオールに続き、日本でも再び佳奈ちゃんに【巻き込まれた】らしい。
状況から見ても、確実に逃げられない。
だから。
「マスク着用させてよ・・・生徒にバレるとマズイから・・・それと、三ヶ月間、サングリア無料。」
「Absolutely」
綺麗な英語で、佳奈ちゃんは笑いながら返事をすると、他の出演者たちと打ち合わせを始めた。
私は大きく息を吐いた。
みやあ。
鳴き声が聞こえたので、そちらを見ると、琥珀が目をまん丸くしたまま見つめてきた。
だいじょうぶ?
と言いたいのだろう。
「何とかなると思うけど、久しぶりの大舞台だから、精神的には少々きつい。」
にゃお。
ごめんねというように、琥珀は一声啼くと、私の足に体を擦りつけた。
ピアノ搬入だが、おえらいさんからOKを貰ったらしい。
仲田さん達が口添えしてくれたようだ。
20分で栞さんは全音楽の編曲を終えたようだ。
彼女は編曲した楽譜のスコアを演奏者の4人に配りだした。
栞さんが編曲した曲の楽譜を見て、唖然としてしまった。
全パート、すなわちサックス、コントラバス、ピアノの3パートは、超絶技巧必須。
「栞さん、佳奈ちゃん、いくらなんでも・・・」
「大丈夫。京子さんならいける」
佳奈ちゃんが断言した。
「私とモンテリオール国際ジャズフェスティバルで大暴れしたでしょう。その時に比べりゃ、遥かに客は少ないから、自信持って」
そう言うと、佳奈ちゃんは後ろを振り向き、仲田さん達声優にニヤリと笑っていった。
「これで成功させなければ、ここにいる全員、うちの店、出禁にしてやるからな。」
「そりゃあ、キツイ。」
仲田さんの隣にいた葛城君が笑った。だが目つきは真剣だ。
「大丈夫。必ず、成功させる。」
仲田さんの言葉に、声優陣全員が頷いた。




